PiPi's World 投稿小説

クサナギ〜蒼い剣と紅蓮の翼〜
その他リレー小説 - ファンタジー

の最初へ
 20
 22
の最後へ

クサナギ〜蒼い剣と紅蓮の翼〜 22

「あ……」
彩華の苦しげな叱責に少しだけ正気が戻る。
「大丈夫か酒井?」
「氷室か。ちっ、あのクソ餓鬼ふざけやがって」
一足先に到着していた氷室が瓦礫の中の鬼の男・酒井を気遣った。酒井は肩を回しながら瓦礫を押し退けて立ち上がる。
そんな2人を剣を構えた高志郎が睨んでいた。彼は振り向かないまま問う。
「大丈夫か真?」
「高、志郎……たち、ばな……」
半分だけの正気が自分が何をしてしまったのか悟る。恥ずかしくて済まない気持ちが狂気と混ざり合う。
「おれ、おれは……ああぁぁぁぁあっ!!」
罪の意識が狂気に冒され、心が引き裂かれた。
金切り声を上げ、頭を抱えて蹲る。周りの地面に魔方陣が浮かび、眩く輝く。
「真!」
「ごめ……ん、高、志郎」
か弱い謝罪を残して真の姿はかき消えた。
転移魔術、真の逃げたい気持ちが術を暴発させた。
「くそっ、まだ近くにいる筈……!」
「バカっ! 今はあっちが先よ!」
冷静さを失いかけた高志郎を彩華が叱咤する。
彼女の言う通り、氷室と酒井がまだいる。
「あれが巫女だな?」
氷室が結衣を指差して訊くと酒井は無言で頷いた。
「そうか」
標的を確認した彼は氷の剣を構える。殺気の向く先は結衣だ。
結衣を抱いたまま座り込む彩華を背中に庇うように、高志郎は氷室に対峙した。
「邪魔をするつもりか?」
「当たり前だ!」
「……」
双方、剣を構える。
しばしの睨み合いの後、どちらからともなく飛び出し、斬り合いが始まった。
蒼の闘気と白の凍気がしのぎを削る。
両者とも2分もしないうちに斬り合いに没頭していく。
「怪我人は怪我人同士で闘るか?」
斬り合う二人を余所に酒井は彩華と結衣の前立った。
意識の無い結衣を塀に凭れ掛からせ、彩華は身構える。
その表情は苦しげだ。真の魔術を受けた背中のダメージは思いの外重い。
酒井は首をコキコキ鳴らして肩の凝りを解しつつ寄ってくる。
これ以上近づかせまいと、彩華は炎を出した。噴出した炎は地を這い、炎上網となって酒井の前に立ちふさがる。
酒井の足が止まった。だがそれは炎を恐れての行動ではない。意外そうな顔をして彩華と炎を見ている。
「紅蓮の炎気……おめぇもしかして十年前殺し損ねたガキか?」
「十年前?」
「忘れちまったのか? 目の前で親父を殺されたってのに。確かあん時はすげー雪が降ってたよな」
「雪…………」
彩華の表情が凍りついた。
脳裏によぎる父の姿。安心させるように笑って、自分を守ってくれた。そして……赤色が、父を染めて……

「彩華っ!」
高志郎の呼び掛けに、はっと表情を取り戻す。
刹那、酒井の攻撃が彩華を襲った。

SNSでこの小説を紹介

ファンタジーの他のリレー小説

こちらから小説を探す