クサナギ〜蒼い剣と紅蓮の翼〜 19
「なっ……!?」
「紅蓮の炎気、聖櫃の運び手であったか!」
「がっ!」
驚いて呆然とする彩華の腹に強烈な蹴りが入る。彼女は吹き飛ばされ、凍った地面に転がった。
「む!」
追撃しようとした氷室の前に高志郎が立ち塞がる。
蒼い光を帯びた短剣と氷室の氷剣がぶつかり合う。
「蒼の剣戟、宝剣の担い手だな」
「はっ!」
氷室の呟きには構わず、高志郎は短剣を振るう。しかし度重なる斬撃はことごとく弾かれた。
「ふんっ!」
氷室が反撃した。高志郎はなんとか受け止めたものの、勢いに圧されて後退する。
「聖櫃に宝剣、ならば……貴様が宝鏡だな女!」
氷室は方向転換して早苗に向かって行った。高志郎も彩華もすぐには動けず、止められない。
氷剣が打ち下ろされ、早苗の頭を狙う。
しかし早苗は微動だにせず、避ける様子も無い。彼女は目を閉じて微かに呟いている。
「……我が領域を守る楯を生さん」
紫色の光が魔方陣を生す。楯のように早苗の前に展開し、氷剣を受け止めた。
「ぬぅ……」
氷剣ごと弾かれた氷室は一旦構えを解き、怪訝な顔で早苗を見た。
「紫色の魔力……貴様、宝鏡の巫女ではないのか?」
「さぁ、どうでしょう?」
早苗がまるでもったいぶる様に惚けたその時だった。突如地面が揺れ始めたのは。
「地震か!?」
「この感じ、この前と同じじゃない!」
邪気と瘴気が草薙市に広がった日の地震、あの時の揺れと今の揺れがそっくりだと彩華は思った。実際、地震の最中だというのに邪悪な気配を感じる。
だがそれだけでは終わらない。揺れが収まりかけた頃、雷が落ちた様な轟音とともに街の方で白い光の柱が立ち上った。
「今度は何よ!?」
彩華がヒステリックな叫びを上げる。高志郎も早苗もワケがわからずただ呆然と光を見ることしかできない。
「純白の魔力……そういうことか!」
氷室は呟くや否や、高志郎達を置いて石段を飛び下りていってしまった。
「逃がすか!」
「あ、待ちなさいよ!!」
高志郎は氷室を追いかけ、彩華は高志郎を追いかけて石段を飛び降りていった。
「……」
出遅れて1人取り残された早苗。
(行ってしまいましたか……私の足では追っても無駄でしょうね)
早苗は魔術師、こと運動能力に関して言えば高志郎たち闘士には大きく劣る。追っても見失うのがオチだった。
(私は……こっちですね)
思いついたように手を打ち、早苗は神社の残骸を調べ始めた。
瓦礫の中から砕けた青銅剣が見つかるのはこの数分後の事である。
高志郎は夜の街をひたすら突き進んだ。
自動車に匹敵する速さで道を走り、突き当たったら塀に足をかけて民家の屋根に飛び乗り、交通量の多い道路は一足飛びに跳び越える。
「ちょっと無茶しすぎよ高志郎!」
少し後ろから怒鳴り声がする。ちらりと後ろを見ると彩華が追いかけてきていた。
「人に見られたらどうすんのよ!」
「仕方がないだろ、今はあそこに行くのが優先だ。それに、なにか嫌な予感がする」