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クサナギ〜蒼い剣と紅蓮の翼〜
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クサナギ〜蒼い剣と紅蓮の翼〜 13

話が後半に行くにつれ、空気がピリピリしたものに変わっていく。
「困ったことになったわねぇ」
籐子は頬に手を当ててそう言うが、顔色は全く変わっていなかった。慣れているのか、高志郎とクロはいちいち突っ込まない。
「蛇の化け物が出てきたのは最悪だな……」
「どういうことだ?」
「……話したいのは山々だが、私は用事ができた。日をあらためよう」
高志郎を抑え、クロは一方的に話を打ち切ってきた。
「じゃあおばさんが……」
「いや、どうせなら橘達が一緒の方が良い。また明日来てくれ」
「わかった、約束しよう」
約束を取り付け、クロは入ってきた窓から出て行った。


次の日、高志郎はいつもどおり結衣と通学路を並んで歩いていた。
だが雰囲気は重く、互いに一言も話さない。
結衣は昨日高志郎の正体を知り、使命を知った。そのせいで高志郎が急に遠くの存在に思えてしまっていた。
そしてそれは高志郎も同じ。自分の正体を知られてしまった事で結衣にどう接していいのかわからない。さらに真と同じく結衣も幽鬼を見ることが出来たという事実が高志郎の心をより重くした。
(結衣もきっと……)
鬼児なのだろう。鬼児にしか見えない幽鬼が見えたのだから。
(鬼児は引かれ合い惹かれ合う、か……)
以前籐子から聞かされた言葉だ。鬼児は本人も気付かないうちに集まってしまうそうだ。
クラスメートに続いて親友さらに幼馴染み、高志郎は宿命を感じずにはいられない。
(だが、結衣だけは戦いには巻き込まない。絶対に!)
本当は真だって巻き込みたくなかった、だが彼は自ら踏み込んできてしまった。だからせめて結衣だけは巻き込まない。高志郎が何としても通したい意地だった。
「ねぇ、こー兄」
「ん?」
声を掛けられて高志郎は結衣の顔を見下ろす。彼女は少し不安そうな顔で口を開いた。
「こー兄は、こー兄のままだよね?」
非常に抽象的な問い。高志郎は少し考え、結衣が何を言いたいのか気付く。
「ああ、俺は昔から俺のままだ」
それが答え。人間としての高志郎も、鬼児としての高志郎も、どちらも同じだという事だ。
結衣はその答えを聞いて安堵のため息を漏らし、微笑んだ。邪気の無い見る者が安心できる笑顔だった。
 
 
奇妙な夢を見た。
大切な人が死にそうになっている夢。
握った手から温もりが少しずつ失われ、涙で歪んだ視界に映る顔から血の気が引いていく。蒼剣の輝きが失われ、彼の死が現実味を帯びてくる。
残されるあたしの哀しみを少しでも和らげようと、彼は最後に約束の言葉を遺した。
約束の証に冷たくなった彼の唇に口付ける。穏やかな死顔、それはまるで……。


「彩華」
「あ……」
早苗に呼びかけられ、彩華は我に返った。

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