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Beast Master“真”
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Beast Master“真” 90

(見つけた!)
闇の中で力を手にした真は内なる世界から意識を引き戻した。途端、水圧によって身体が軋むのを自覚する。そう長くは持ち堪えられそうにない。
(一撃だ……。この一撃で、確実に砕く!)
強引に汲み上げた力を右手に集約し、手の甲には左手の人差し指で必滅の術式を描く。握った拳が黒色の光を纏った。
(これで本当に最後だ)
身体を捻り、黒く輝く拳を竜の涙に叩き付ける。必滅の術式が起動し、秘宝を粉々に砕いた。
水色の光の粒になった竜の涙は、ゆっくりと海面に上って行く。
真は穏やかな気持ちでそれを見送る。
「がっ……!」
緊張が解けた途端、黒い魔力が身体を蝕み始めた。強過ぎる力が出口を求めて体内で暴れ回り、内から喰い破ろうとする。
(このっ! 鎮まれ!)
真は全神経を集中して力を抑えにかかる。力は真の身体を傷付けるほどに暴れたが、段々と抵抗を弱め、最後には治まった。
(ふぅ……なんとかなったかな。けど……)
力を抑えることに集中したせいか、身体がもう一ミリも動かない。意識が朦朧としてくる。これでは海から上がれない。
(今度こそダメかな、おれ?)
抗うことも出来ず、深海へと沈んでいく。
(また闇の中か……)
深くなるにつれて闇の度合いが深まる光景を見て自嘲する。
その時だった。海底の闇の中から何かの声が聞こえてきたのは。
(これは、まさかクトゥルー!!)
このルルイエの海底に潜む者などそれくらいだった。
(でもなぁ……)
魔獣使いの力のせいかクトゥルーの声に秘められた思いを真は理解できた。そして驚愕した。
(なんだ。大層な神様の癖に寂しかったのかよ?)
クトゥルーの思念は狂気に満ちていたが、真はその中に寂しい気持ちを感じた。
孤独に飽き、闇に怯えている。純粋に助けを求めていた。自分を封印した者への恨みなどとうに錆び付いていた。
真はそんなクトゥルーを憐れに思った。
(おれも、ああなるのか?)
死の眠りにつくクトゥルーは沈んでいく真の末路と同じだ。このままでは真はいずれ死ぬ。こんな所で死ねば、魂も永劫にこの海に縛られてしまうだろう。
(冗談じゃねぇ! 邪神とお友達なんかになってたまるかよ!)
真はなんとか状況を打開しようと足掻く。しかし身体はピクリとも動いてくれなかった。(くそっ! セドナ! セドナぁぁっ!)
心が愛しい少女を求める。
絶対にセドナのもとに帰りたい。もう一度会いたい。
死の淵に立ってみて、セドナの存在の大きさを改めて認識する。ずっと一緒にいたいと想えるくらい愛しい。
(セドナーーーッ!!)
「……真!!」
想いは届いていた。
真の唇に柔らかい何かが触れた。そしてなにかが歯の間をこじ開けて口内に押し入って来る。鉄の味。
身体に活力が戻る。
目を開けるとすぐ前にセドナの顔があった。そして自分が彼女とキスをしていることに気付く。
慌てて顔を離すと、セドナの口元に赤い染みが見えた。

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