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Beast Master“真”
その他リレー小説 - ファンタジー

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Beast Master“真” 1

急がなくちゃいけない。折角の修行が無駄になる。大切な仲間を助けるための戦いの時に遅れるわけにはいかないんだ。遅れたら自分を許せない。
急ごう。何とかして、日本に帰るんだ!

でも……


「どうしろって言うんだよ!」おれは日本語で思いっきり叫んだ。道行く人々が一瞬、おれの方を見たけれど、すぐに興味を失って視線を戻した。おれの言葉が理解出来なかったせいもあるだろう。ここはロンドン。英語圏のど真ん中だ。
「喚くな。そんな暇があるなら頭を使え」
などと足下でほざくのは日本へ真っ当な方法で帰れなくなった原因。
見た目は子犬。けれどただの子犬じゃない。少なくとも人語を解してしゃべってる時点で犬じゃないよな。しかもこいつは日本語どころか英語までしゃべれる。英語の成績が悪いおれにしてみれば羨しい事この上ない。
足下の小憎らしい使い魔を軽く睨んで、雑踏に目を戻す。右も左も判らないイギリスに置き去りにされて、おれは途方に暮れていた。
おれの名前は葉山 真。高校二年生、んでもって魔獣を使う魔術師。足下の子犬が使い魔のワルド、今は子犬の姿だけど正体はでっかい魔狼だ。
こいつがいるおかげでおれは真っ当な出国が出来なくなって、違法な出国方法を探すはめになった。
(ん?)
雑踏を通る人の中に珍しい髪の色がいて、目に止まった。青みがかった銀の髪の少女。染めたんじゃない。自前の髪の美しさにおれは目を奪われた。振り向いたその子と目が合う。その子は少しはにかんで微笑んだ。胸が高鳴る。
「ボーッとするな馬鹿者!」
ガブリ、と何かが足首に噛み付く感触、激痛。
「んぎゃぁあ!」
ワルドの牙だった。

溜め息を吐いて夕方の市街を歩く。結局、出国する手段は見つからなかった。
「主」
不意にワルドが緊張した声を上げる。
「何か人でない匂いがする!」
警告されておれはあたりに気を張る。人外という、化け物の気配が感じられた。
「……どうしてこう悪い出来事ってのは一時に重なるかな。おれの人生そういう星の下?」
 ワルドはおれの悲しき呟きも無視して、周囲を注意深く見回している。だがその過敏な反応も分からないでもない。
 肌を突き刺すような気配を通して分かる。
 並みよりは上。
 それが漂ってくる気配から判断した相手の力量。もっとも平均の実力ですら人には脅威になるような相手だ。少なくとも気を抜いてもいい相手ではない。
 化け物。それがやつらを形容するもっとも適切な言葉だ。それに対抗する力を持っていても、真剣にやらなければ。
「化け物はどのあたり?」
「匂いを追う。付いて来い!」
ワルドは自慢の鼻で探り、駆け出した。おれはすぐに後を追う。
ついでに呪を紡いで、虚空に裂け目を出現させる。そこに手を突っ込み、銃を取り出した。

人気の無い裏路地で目にしたのは、男二人に追い詰められている少女だった。英語で言い合いをしている。
ワルドが珍しく緊張してるのが伝わってくる。おれは大事だと判断して、銃を真上に向けて撃った。
ズドォン!
銃声に気付いた男達がこっちを向く。二人とも異様に目の離れた魚顔だ。
「深き者ども…邪神の眷属だ!」
ワルドは男達の顔を見てすぐ正体に気付いた。

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