PiPi's World 投稿小説

Beast Master“真”
その他リレー小説 - ファンタジー

の最初へ
 85
 87
の最後へ

Beast Master“真” 87

艦橋の上から戦いを見守っていたアクセルは息を飲んだ。
術の余波で上がった爆煙の向こうに二人の人影が佇んでいる。
(やったのか!?)
何時でも飛び出せるように持っていたバンカーファングを握る手が、冷や汗で滑りそうだった。

セドナは見ていた。
真の弾丸がユリウスの胸を貫いたのを。
「が、はっ……」
ユリウスは口から血の塊を吐き出した。右手で押さえた胸からも大量に出血し、紺色のローブを赤黒く汚している。やがて膝から力が抜け、ユリウスはその場に崩れ落ちた。
対して真のほうはしっかりと立っている。
余波のど真ん中を駆け抜けたせいでボロボロだったが、魔力を限界近くまで消費してヘトヘトに疲れていたが、それでも立っていた。
どちらに軍配が上がったのかは明白である。
「おれ達の勝ちだ。ユリウス」
最後の弾丸を放った天虹を下ろしながら宣言する。
その途端、真の身体もグラリと傾いだ。転びそうになった所を駆け寄ったセドナが支えた。
「ありがとう」
「い、いえ……」
「こっ酷くやられたな主」
寄ってきたワルドが軽口を叩く。
「うっさい。お前も似たようなもんじゃないか」
真は言い返し、セドナを苦笑させた。
「なぜだ……なぜ、ただの一発の弾丸で水の防御膜が……っ!?」
「その様子だと、気付いてなかったんだな。水の防御膜の唯一の隙に」
「な、に!」
ユリウスは耳を疑った。無敵と信じていた水神クタアトの防御膜に自分でも気付かない弱点があったということに。
「おれとお前は今までに二度直接戦った。どっちもあの砦の儀式場でだ」
その時は一度目は真の敗北、二度目は引き分けで終わった。
そして今回が三度目、真はこのルルイエ海上に向かう船の中でユリウスを倒す方法を必死に考えていた。過去二回の戦闘を思い出しながら。
違和感を感じたのはそんな時だ。
「二度目の戦いの時、おれがあれだけ攻めたのにお前は傷を負うどころか服に汚れ一つ付かなかった。お前は水の防御膜の効果だと言った。けれどそんなのおかしいだろ? 最初の戦いの時、お前はおれの術の余波で傷を負っていたじゃないか」
「!!」
ユリウスは愕然とした。その事実が示すことこそ、真の言う隙だ。
「レイジングカレント、確かに凄い術だ。おれの最大の術でも生き残るのがやっと。早苗にだって敗れるかどうか分からない」
しかし、それだけ強力な術ならば消費する力も大きい。
「多分、レイジングカレントの発動中は全ての力がそっちに引っ張られるんじゃないか? もちろん、水の防御膜にまわしていた力も」
つまり、その一瞬だけ水の防御膜は消える。結果、術の発動直後の攻撃には防御力が無いに等しい。それが水神クタアトの水の防御膜の隙だった。
「弱点がわかればあとは作戦を用意するだけでいい」
ワルドが後を引き継ぐ。
ユリウスの攻撃に必死に耐え、執拗に挑発し、最大の術を出させ、それを相殺し、隙を突く。それが真の策戦だった。
「全てしてやられたと言うわけか……」

SNSでこの小説を紹介

ファンタジーの他のリレー小説

こちらから小説を探す