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Beast Master“真”
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Beast Master“真” 80

「舐めるな」
ユリウスは体勢を崩しながらも、書に魔力を叩き込む。書が薄く発光し、術式が発動する。
「アクアボール!」
大玉のような水球がバウンドしながらワルドを襲う。
ワルドは紙一重でそれを避ける。しかし
「甘い」
水球はすぐそばに落ちた途端破裂した。開放された大量の水にワルドは飲まれる。
「ワルド!」
真が呼ぶとワルドは水の中から飛び出し、主の下に戻った。しかし今のダメージが重いのか、頭を垂れてしまう。
「さすがに今のは効……がっ!」
突然、ユリウスが吐血した。だがそれは真のせいではない。
訳が分からない顔の真にワルドが自分の推測を話す。
「恐らく反動だ主。水神クタアトは強力過ぎる魔術書、いくら相性が良くてもあれだけ使えば術者への負荷は相当のはず……」
「そんな! なんでそこまでするんだよ!?」
理解出来ない。身も心も魂までも磨り減らしてまで邪神を復活させる理由なんて真には全く思い付かない。
「わからないか。めでたい頭だな」
「な、なんだって!」
バカにするようなユリウスの物言いに真は大袈裟に反応する。その様をさらに鼻で笑い、ユリウスは語り出した。
「聞いたことくらいあるだろう。我ら混血の鬼児がヒトに存在を知られた時、どうなるのかを」
それくらいなら真も聞いたことがある。
人外も鬼児も人智を超えた異能を持っていることには変わりない。ヒトはそれを脅威と感じ排除しようとする。
英雄殺し、魔女狩り、異端狩り。ヒトによって殺された鬼児は数多くいた。
「私も迫害された。名前も知らない少年を助けたことで正体を知られ、故郷を追われた。そして同じように故郷を失ったエリザに出会った。私たちは誓った、ヒトの世を滅ぼし新しく鬼児の世界を作ろうと」
「そんなの、狂ってる」
「そうだ狂っている。しかも自ら始めた戦いでエリザを失った私はもはや新たな世界を作る意欲すら無い。世界を壊して私も朽ちる。エリザのいない世界など何の価値も見出せない」
やはり狂っている。
だが真は恐怖ではなく憐憫の情を覚えた。
大切な人を失って行き場を無くした狂気が真の目には哀しく見えた。
(哀れだよユリウス。でも、おれにも譲れない思いがある)
目を閉じれば浮かぶ、出会ってきた人たち。共に戦う仲間、故郷で今も戦っているであろう親友たち。
彼らのいる世界が壊されるなんて耐えられない。
「壊させたりなんかするもんか。お前の空っぽな狂気なんかに潰されてたまるかよ!」
「よく言った。それでこそ我が主だ」
ワルドが傍らに立った。
「口だけは達者だな。この水の防御膜に死角は無い、私の圧倒的優位だ。それでも戦うというのか?」
「おれには守りたい人たちがいるんだ。逃げるわけにはいかないんだよ」
「そうか。ならば死ね」
こうして会話は終わり、決戦は再開された。

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