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Beast Master“真”
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Beast Master“真” 57

爆炎が陣内で暴れ回り、ウィルバーの悲鳴すら掻き消す轟音を響かせた。
やがて術が収まり煙が晴れていく。姿を現したのは床に臥したウィルバーだった。辛うじて生きている。
「大したもんだ。殺すつもりだったがね」
荒は段平を納める。止めは刺さなかった。
「さて、あっちはどうなる?」
荒が見ると真とユリウスはまだ睨み合っていた。後方で行われていた戦闘のことはすっかり頭の外のようだった。
「退け」
真は精一杯の敵意を込めて言った。
「断る」
ユリウスも同じように返した。
荒は真に加勢しようと思ったがすぐに思い止まった。両者は既に魔力を極限まで高めている。下手に手を出せば拙いことになりかねない。
(ワルド)
(うむ)
真は一瞬ワルドに視線を送った。ワルドも目だけで頷く。
(一撃で……)
(決めさせてもらう!)
真がワルドの封印を解いて詠唱を始めた。同時にユリウスも水神クタアトを取り出して詠唱を始める。
魔力が駆け巡る。その影響で荒が咥えたタバコの火が爆ぜた。信者たちもあまりのプレッシャーに慄き、ほとんどが気絶した。
そんなまわりの事など目にも耳にも入れず、詠唱は終末を迎える。
「貫け、ファングオブフェンリル」
「押し潰せ、猛りの水流」
ほぼ同時に術が発動した。
灰色に輝く狼が疾駆し、目の前に発生した鉄砲水に飛び込んだ。真っ向からぶつかった2つの力が鬩ぎ合う。
「おおおおぉぉぉぉっ!」
ユリウスが吠える。握り締めた水神クタアトの、人の皮で出来た醜悪な装丁が汗を噴き出す。
「う、ぐあぁぁぁぁ!」
真も吠える。しかしそれは気迫の雄叫びと言うよりも、悲鳴の絶叫に近い。
灰色の閃光が激流に圧され始める。均衡が崩れ、ユリウスの水は勢い付いた。
そして唐突に、灰色の光が消えた。
「っ!」
悲鳴を上げる暇すら与えられず、真は激流に飲まれる。
「拙い!」
見ていた荒は咄嗟に天井ギリギリまで跳んだ。
眼下では激流がホールを覆い尽くし、信者や深きものどもおも押し流していた。
だがそれもほんの数秒、術の効果が切れると水は嘘のように引いた。そこに立っていたのはユリウス一人だけだった。
荒は壁際に真とワルドを見つけ、そのそばに降り立つ。
真はまだ意識があったのか、震える脚に力を込めて強引に立ちあがった。
そこにユリウスが悠然と歩み寄ってくる。真とワルドの術の余波にやられたのか、頬が浅く切れてローブにも穴が空いていたが、大してダメージは無さそうだった。
「時間切れだ」
そう言って彼は祭壇の上を見上げる。そこでは何かの儀式を行っていたナイの右腕が青白く光っていた。

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