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Beast Master“真”
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Beast Master“真” 53

「え……」
カリンは己が目を疑った。早苗が喚び出したのは四大精霊のひとつ、水のウンディーネ。だがありえない。
本来、四大精霊の召喚は一属性しか出来ない、二つ以上の四大精霊を召喚する事は本来不可能のはずなのだ。
だが早苗はその法則をあっさりと無視した。真の言ったとおり彼女もまた天才だった。
カリンの思考が止まる。
「ウンディーネ!」
水の精霊がにっこりと微笑み、軽く手を振る。すると大量の水がサンドゴーレムの真上から降り注いだ。
砂が水を吸って固まり、強い水圧で押し潰される。
サンドゴーレムは早苗の予想以上に堪えたが、やがて水との均衡が崩れ、泥水になって消滅した。
最後の牙城を崩されたカリンは呆然と立ちつくす。
「ひっ……!」
水煙の中から早苗が目の前に現れ、驚いたカリンの口から引きつった声が出た。
「……」
無言でカリンを見下ろす早苗。その目に映るのは怯えて震える小さな子供。
「来ないで……」
か細い声が耳に届く。その瞬間、早苗はカリンを理解した。
そばまで寄って膝を付き目線を合わせる。腕を伸ばし、小さな身体を引き寄せた。
「え……」
突然のことに、カリンは身を強張らせる。
早苗は怖がらせないよう、優しく抱き締めた。
「怖がらないで……もう、何もしないから……」
耳元で静かに囁く。
「もう……なにも怖い事は無いわ……。ひとりぼっちで寂しかったでしょう、辛かったでしょう……でも、もう……大丈夫」
早苗がカリンに見たもの、それは孤独だった。一人きりが寂しくて、怖くて、どうすればいいかわからない、未熟な子供の叫びだった。
真に敵意を抱いたのも復讐のためじゃない、傷付けることで人と関わろうとしただけだった。最初から暴れることが目的で、復讐が手段だったのだ。
「安心、して……貴女は私が守るから、ひとりぼっちには絶対にしないから……」
早苗にはカリンの痛みが理解できた、彼女も独りの辛さを知っていたから。だからこの小さな娘を守りたいと思った。
「……」
もう言葉が思い付かない。だから力一杯抱き締める。
クマのぬいぐるみが地面に落ちた。小さな手が早苗の着物をぎゅっと掴む。寄せた頬に暖かいものが流れる。涙だった。
「う……うぇ……」
カリンの口から嗚咽が洩れ、やがて堰を切ったように泣き声をあげはじめた。
早苗はカリンを胸に抱いたまま天を仰ぐ。かつて自分を救ってくれた親友に想いを馳せた。


砦に侵入した真たちは、地下牢に下りて、一番奥の牢の床にあからさまに怪しい鉄扉を発見した。
荒が開けようとしてみたが、鍵が掛かっている。
「陸にもらった鍵を試してみよう」

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