Beast Master“真” 50
「あっはっは…僕はいつも『楽しい』よ?」
「そ〜ぉ?」
「そう『楽しい』」
「ならいいや」
無邪気に笑うマリオン
「じゃあマリオン、後はマコっちゃん達に任せて帰ろっか」
「うん」
そう言うとペンギンに変身した陸がマリオンを背に海に飛込んだ
陸たちと別れて先に進んだ真たちは、大西洋を望む遺跡に辿り着いていた。
「砦かな?」
「そうね……」
真の呟きに早苗が無感動な声で答えた。
「お二人さん、こっちから入れそうだぞ」
荒を先頭に、城壁伝いに歩く。程なくして巨大な門扉が現れた。
「閉まってるな」
「なんとかして開けないと……」
「ここは私が」
早苗が前に出た。いつの間にかアゾット剣を抜いている。
「気を付けろ、扉の向こうから魔の匂いがする」
「心得ました」
ワルドの忠告に早苗は頷き、目を閉じた。
「天の裁定此処に下りて……」
美しい声が唄うように召喚の呪文を紡ぐ。アゾット剣が紫色の光を落とし、地面に落着すると同時に緑色の光となる。光は魔方陣となって展開し、風が舞った。
「シルフ」
静かに名を呼ぶ。緑色の燐光を纏った少女が顕現し、甘えるように早苗の首に抱きついた。
「お任せします」
早苗の指令にシルフはにぱっと笑って頷き、小さく細い腕をちょいちょいっと動かす。すると巨大な風刃が発生し、扉にX字の切れ目を作った。轟音を立て、砂煙を上げて扉が崩れる。
「むっ、この匂いは……」
扉が崩れるとほぼ同時にワルドが顔を顰めた。
「心当たりがあるのか?」
「いや、心当たりのある匂いに似ている感じだ」
真の問いに珍しく歯切れ悪い答えを返してくるワルド。その視線の先で、砂煙が晴れた。
現れたのはクマのぬいぐるみを抱いた少女だった。見たところ歳は10歳前後。長い金髪に大きなリボンを付け、フリルのたくさんついた服を着た可愛らしい感じの娘だ。
しかしその表情は今にも泣きそうで、瞳は憎悪に燃えていた。視線の先には真とワルドがいる。
「来たよパパ。パパの身体取ってっちゃったひと来たよ」
少女の声に応えて何かが出てくる。
それは人形だった。足が立たないのか下半身をずりずり引き摺りながら、上半身についた腕で少女の傍らに這って来る。
「もうちょっとだけ待っててね。すぐに身体取り返してカリンがくっつけてあげるから」
カリンを名乗る少女は人形の首に手を回し、愛おしそうに抱きしめた。
「あの人形の匂い……パパだと!?」
「一人で納得してないで説明しろよ!」
カリンの言葉は英語だったため、聞き取れない真は意味がわかってなかった。