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Beast Master“真”
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Beast Master“真” 47


真が寝かされていたのは隠し洞窟の一室だった。
早苗とともにトリトンの部屋に向かう。踝まで浸かるほど水が侵食した洞窟を見るからに高そうな着物で歩く早苗の姿はとても奇妙だった。
やがて集落の住人たちが寄宿していた広場に出る。そこには先ほどの戦闘で犠牲になった者や、生ける屍にされて倒された者の遺体がたくさん安置されていた。
「こんなに死んだのか」
「そうよ……」
真の呟きに早苗は素っ気無く答えた。
「目が覚めたか主」
広場の真ん中にはワルドがいた。再封印するまえに真が気絶してしまったため大きな姿のままだ。真のそばにいなかったのは部屋に入りきれなかったせいだろう。
「今からトリトンに話を聞きに行く……貴方も付いて来て……」
早苗の要請を受けてワルドは頷く。
「心配かけたな」
「いや、神を倒したのだ。無理もあるまい」
再封印して子犬に戻ったワルドを加え、トリトンの部屋に入る。中には既に荒と陸、そしてマリオンも来ていた。奥の方には澪に付き添われてトリトンが椅子に腰掛けている。
「来たか……」
「トリトンさん、話を詳しく聞かせてください。全部です」
襲撃前とは事情が全く異なってしまっているが、訊くことは同じだった。
「わかった話そう。」
トリトンはまるで罪人が懺悔するかのような顔つきで話し始めた。
「聞いてのとおり、セドナは竜の涙そのものだ。セドナの中に竜の涙があるのではなく存在そのものを融合させている」
「やっぱりナイの言ったことは本当のことだったんですね」
真の声には隠しようのない苛立ちが聞いて取れた。トリトンは観念して頷く。
「我が家は代々竜の涙を家人の誰かの存在に融合させることで隠してきた。そして今現在の被封印者がセドナなのだ」
「どうして、どうしてそんな封印方法をとったんですかっ!? ただ隠すだけなら他にも方法があったんじゃないですか!?」
もはや抑えの利かない怒りに真は声を荒げた。
「だが、こうでもしなければ今まで何度もあった危機を乗り越えられなかったのだよ!」
「だったら、そんなもの壊せばよかったんだ!」
「そうも行かないのですのよ。それが」
怒鳴りあいになりそうだったところで早苗が口を挟んだ。彼女が本気のときだけ使う丁寧語だった。
「どうして竜の涙のような強力な魔具が現在も存在するのか、貴方は考えたことがあって?」
「いや……」
「いつまた現れるかもしれない強力な人外と戦うときのため、だろう?」
言葉に詰まった真の代わりに荒が答えた。早苗は頷く。
「確かに、強力な魔具は使い方を誤れば恐ろしいことになってしまいます。しかし、正しく使えば心強い味方にもなる。ですから下手な考えで破壊など出来ないのです」
「セドナが攫われてしまった事は私の罪だ。しかしこんなことを言うのも厚かましいとは思うが、我々のわかってくれ」
優れた魔具の制作は鬼児にとっては輝かしい功績であるとともに、その悪用はその功績の陰の闇だということだった。
場に重苦しい沈黙が落ちる。
そのまましばらく経ってから真が搾り出すように
「わかりました」
とだけ言った。
「そろそろ次の行動を考えたほうがいいんじゃないかなぁ。そんなに余裕があるとは思わないし」
陸が次の議題を提示する。皆頷いた。
「やることはひとつだ。セドナを取り戻そう」
「でだ。まずは嬢ちゃんがどこに連れて行かれたのかだが……」
「我の鼻で辿るか? セドナの匂いは覚えている」
「それでよろしいでしょう」
「でもさぁ。探ってる時間あるのかな?」
陸の疑問は尤もだ。なにせ相手は最終目標である竜の涙を確保したのだから。
「時間的にまだ余裕があるはずです。クトゥルーはすぐ召喚できるものではありませんし、去り際に彼らが残した行程が増えるという言葉から見てもそうですから」
「よし、早速行こう」
ぞろぞろと部屋を出ようとする一行。
最後に出ようとした真をトリトンが呼び止めた。
「セドナを、頼む」
真は無言で頷き、部屋を出て行った。


「死んだ! エリザが死んだというのか!!」
「は、はい」
エリザの死を知らされたユリウスの恐ろしい変わりように、部下の1人は慄いた。
「遺体は?」
「回収済みです」
「そうか……」
ユリウスは俯き、手振りで部下を下がらせた。
「ダゴンがやられた時に負けたとは思ってたけど死んでたとはね」
ナイが無感動な声で呟く。
「どうする? あの娘と魔具の分離作業、延期する?」
「いや、予定どうり行おう」
「わかった。ただし施術者は僕で行くからね」
「かまわん」
ナイが部屋を出て行く。ユリウスは1人取り残された。

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