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Beast Master“真”
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Beast Master“真” 43

主の無事にホッとしたのも束の間、深きものどもが大勢で襲い掛かってくる。ワルドは真を庇うように前に出て暴れまわった。蠢く異形どもを牙で噛み千切り、爪で引き裂き、体当たりで吹き飛ばして屠っていく。殺すたび倒すたび青黒い血に汚され、自分が流した血で赤く染まっていく。
真は獅子奮迅するワルドを呆然と眺めた。身体が動かずそうするしか出来なかった。
(くそっ、おれは何をやってんだ!)
ワルドが独りで戦っている。自分を守って傷つきながらも戦ってくれている。なのに、自分はへたり込んでみているだけ。情けない。そう思った時、自分がアクセルに負けた理由を悟った。
(なに思い上がっていたんだおれは……)
あの時、自分は信念を賭けて戦っていたつもりだった。それがなによりも間違いだった。なぜなら戦っていたのは真だけじゃなかったから。知らないうちにワルドと一緒に戦っている事を忘れていた。魔獣使いの力は絆。それを忘れていた。
ワルドはそんな自分を守ってくれている。ならば、主である真はそれに報いるのみ。
(身体が動かないのがなんだ。おれはまだ気を失ってもまして死んでもいない。まだ戦えるんだ!)
生きている、戦える。そう思った途端、鉛のように重かった身体は嘘のように動いてくれた。激痛はあるものの、気にならない。
『天虹』を手に詠唱を開始する。奔る魔力、赤く輝く銃のルーン文字。
引き金を引く。銃口が文字通り火を噴いた。火は炎となり、ワルドに纏わりつく深きものどもを焼いた。
「主」
「殺るぞワルド。おれ達が組めば神も倒せる。絶対にだ!」
ワルドは急に雰囲気の変わった真を不思議そうに見つめたが、主の心境を悟ると不敵な笑みを浮かべた。
「汝が戦うと決めたならば我は剣になろう。汝の死す場所こそ我が死に場所と心得よう」
「ああ、おれもお前に命を預けた」
「その意気よ」
「え……!?」
不意に少女の静かな声が真の耳に届いた。
「貴方の力は絆。絆はすぐそばにあるもの。心から手を伸ばせば、いつでも応えてくれるの」
聞き覚えのある声。忘れようにも忘れられない声。仲間の声。
真は声の主の姿を探してあたりを見渡す。だが岩浜のどこにも姿は無い。
「上だ主」
ワルドが匂いを嗅ぎ取った。
見上げると、上空には黒い少女が居た。真っ黒な髪を腰まで伸ばし、黒地に金色の稲穂が描かれた着物を着ている。
「ったく、いつもヘンな所で出てくるよなお前。実はタイミング図ってただろ?」
「あら、今気付いたのかしら。とっくにバレていたと思ってたのだけれど……」
少女は真のよく知る人物だった。近いうちにここにやってくるはずだった人物だった。彼女の名は秋田早苗。真のクラスメートで仲間だった。
彼女はエリザと同じように風を纏って空に浮いていた。
「まあ、いいや。出てきてくれたからには手伝ってくれるんだろ?」
「ええ、私はあの女を抑えるわ。ダゴンの始末は貴方、花を持たせてあげる……」
「そのセリフは聞き捨てならないわね」
突然の闖入者に警戒していたのだろう、エリザは2人の会話をずっと聞いていた。当然、早苗の見下した言い様には怒りを露にする。
「これは神殺しよ。でも神とはいえ今は強力なだけの怪異に落ちた存在。出来るでしょう?」
早苗は完全に無視した、無視して会話を続けた。
「この、小娘ぇ!」
エリザの風刃が飛んでくる。だが早苗はそれに備えて構えるようなことはせず、また無視した。
風刃は早苗に当たる直前、何かに阻まれて掻き消された。早苗はノーリアクション。まるで何事も無かったかのようだ。真はそんな彼女に苦笑しながら答えた。
「殺せるかどうかはわからない。でも、なんだか不安な気分じゃない。だからきっと上手くいく」
真の答えは勢い付いてるでもなく、引いている訳でもない。落ち着いた貫禄のあるものだ。早苗は真の答えに満足そうに笑う。
「クスクス……貴方からそんな自信満々のセリフが聞けるなんて思わなかった。それでは私はアレのお相手をして参ります。ダゴンは成長した貴方にお任せいたしますわ」
最後だけお嬢様口調だった。真は知っている、こうなった彼女は最高の戦果を上げられるのだと。
「それからこれはついでですわ……」
早苗はそう言うと、物凄い速さで詠唱を始めた。真や荒を大きく上回るペースで術式を組み上げていく。膨大な魔力が針の穴を通すような正確な制御で式を奔る。
「かの者たちに祝福と癒しを与えん!」
真たち全員に暖かい光が降り注ぎ、傷を癒す。癒しと解呪そして助勢の力を持つ白魔術だ。疲れと痛みがたちまち抜け気絶していた陸とマリオンも目を覚ました。

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