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Beast Master“真”
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Beast Master“真” 41

「なんだお前は?」
ユリウスは道端の石ころを見るようなつまらなそうな目で真を見た。彼は真の事など歯牙にもかけていない。いきなり銃を向けられても表情ひとつ変えなかった。
「セドナを返せ!」
「なるほど、十剣のクライドを倒した小僧か…。悪いが竜の涙を返す訳にはいかない。これは我々の計画に必要な物だからな」
「うるさいっ、セドナを放せ!」
両者の言い分は平行線。歩み寄りなど皆無だ。
真は怒りで頭がどうにかなりそうだった。こいつらはセドナを人として見ていない、物として扱っている。気に入らない、赦せない。
「あくまで己の意思を通すか。その心意気だけは立派だが目障りだ」
ユリウスには真がどうしようもなく愚かで矮小で卑しいものに見えた。そのような愚物が自分に逆らうなど身の程知らずも甚だしい。
「待って、私が殺るわ。いい憂さ晴らしになりそうだし」
魔術書を起動させようとしたユリウスを制してエリザが出る。彼女は既に暴風を纏って戦闘準備万端だった。

「いいだろう、一撃で仕留めてやれ」
「わかったわよ」
完全に見下したセリフに彼女はさも当然のように頷いた。エリザもまた真を雑魚だと認識していた。
「ふ、ふざけるなぁ!」
真は怒りにまかせて銀閃を連射した。追尾の魔力を帯びた銃弾がエリザを襲う。しかし彼女はそれを避けようともせず、風の楯で弾き飛ばした。
「この程度? もういいわ、死んじゃいなさい」
暴風の一部が切り離され、風刃となって飛んだ。しかも詠唱無しにだ。
真はエリザのあまりの速さに対応し切れない。
風刃が真を斬り裂こうとしたその時、地面から生えた氷柱が彼を守った。
「これは……陸の技か」
「主ーー!」
「真!」
振り向くと洞窟の方向からワルドと荒、陸とマリオンが走って来るのが見えた。
「数が増えたな、私も手を貸すとするか」
言って、ユリウスも魔術書を取り出した。それを見たエリザが明らかにムッとした顔になる。
「ちょっと、あんな奴ら私独りでも十分よ」
「そうだろうな。だが私もこの魔術書の力を試してみたい」
水神クタアトのページが海風も暴風も無視した動きでパラパラと捲れる。そしてユリウスの口から地獄の底から響くような暗く邪悪な呪文が紡ぎだされた。
「ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるふ るるいえ……」
『ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるふ るるいえ……!』
深きものどもが呪文を復唱する。それはただの術行使の詠唱ではない。神を讃え、神を求めていた。
「あれは、まさか!」
ワルドの表情が驚愕と恐怖に歪む。彼はユリウスがなにをしようとしているのかわかってしまった。
「いかん、あれを止めろ!」
「もう遅いわよ」
「出でよ。ダゴン!」
詠唱が終わり、ユリウスがそれを喚び、それは顕現した。
邪悪な神気が岩浜に溢れた。
恐怖と畏怖の圧迫感に押され、真達は皆その場に蹲る。巨大な影に気付いて見上げると、半人半魚の化け物が出現していた。
「あ、あれってなんだろなぁ?」
常の能天気さに恐怖を含んだ妙な声で、陸が訊いた。マリオンは酷く怯えて顎がガタガタ言っている。真と荒はあまりにも次元の違う存在を前に言葉が出ない。唯一人辛うじて正気を保っているワルドが答えた。
「あれは海神ダゴン。クトゥルーの僕であり、深きものどもが信仰する正真正銘の神だ」
「ああ、多分そうだろうな。この神気…やばすぎる!」
荒が同意した。
ダゴンの雄叫びが岩浜を揺らす。深きものどもが歓喜に吠えた。
「素晴らしい、期待以上の力だ」
ダゴンの召喚を終えたユリウスは満足そうに書を閉じた。
「だが流石に疲れたな。エリザ、私は退く。あとは君とダゴンに任せた」
「わかったわ」
ユリウスはアクセルと伯白、セドナを抱えたナイを伴って撤退し始めた。
「ま、待て!」
「アンタの相手はこっち」
追いかけようとした真を風刃が遮る。吹っ飛ばされ岩にぶつかった。
「さらばだ小僧。もし生き残れたならまた会おう」
「セドナッ、セドナーー!!」
叫ぶ真を風がまた吹っ飛ばす。痛みに呻きながら顔を上げるが、ユリウス達の姿は何処にも無かった。
「そんな……うああぁぁぁっ!」

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