PiPi's World 投稿小説

Beast Master“真”
その他リレー小説 - ファンタジー

の最初へ
 30
 32
の最後へ

Beast Master“真” 32

珍しく戸惑いがみられる声に真は早苗の言うことが事実なのだと悟る。
本当に世界が危ないらしい。
『セラエノ断章、エミグレ文書、いずれも強力な物ばかり。そして私が気になったのが水神クタアトという魔術書…』
水神、そう聞いて嫌な予感がする。不意にあの魚顔が脳裏をよぎった。
『水神クタアトに深きものどもが関わると最悪の事態が想像できるわ…でも確信が無いからまだ言えない。葉山、人魚の秘宝を絶対に奪われないで…そうでなければ破壊しなさい』
「わかった。それで、君もこっちに来るんだな?」
「ええ、文字通り飛んで行くわ」
早苗はそう言って電話を切った。

ロンドン。
ビッグベンを望むビルの屋上に早苗はいた。
風が頬を撫で、長い黒髪を弄ぶ。
携帯の液晶に映るのは衛星地図機能の画面。それで真の携帯の場所を確認する。
向かうべき方角は定まった。後は行くだけ。手段は一つ、文字通り飛んで行く。
「天の裁定此処に下りて、我手中の権限を行使せん。従えるは風の精霊。其の力は優しき衣となりて我を守る」
捉え所の無い美しい声が唄を紡ぐ。
緑色の魔方陣が周囲に展開し、魔力の奔流が式を駆け巡る。
風が集まり、像を結ぶ。緑色の光を纏った少女の姿。
「シルフ」
最後にその名を呼んで術は完成した。
「行きましょう」
温かく優しい風に包まれて、早苗はビルの屋上から飛び去った。
目指すは人魚の集落。かけがえのない仲間、真のもとに。

朝になって真達は歩き出した。
表情は冴えず、足取りも重くなっている。昨夜の電話で聞いた世界の危機が迫っているという情報が重くのし掛かっていた。
無言のまま二時間ほどが経ち、一行は岩浜に到着した。
「こちらです」
セドナが先を案内する。断崖の真下の細道を海水に漬りながら歩く。
「なるほど、隠れ家にはうってつけだ」
荒が洞窟を見て言った。
洞窟は海にせり出した崖の真下にあって入口付近まで歩いて近付かねば見えないところにあった。
「魔の匂い…里の者達だな」
ワルドが鼻をヒクつかせる。辺りは潮臭いのによく区別がつくものだ。
「行きましょう」
一行はセドナを先頭に洞窟に入った。
中は意外に明るかった。ワルドによれば海竜石とかいう魔鉱石が岩に含まれているせいらしい。
「フリーズ!」
突如、前方から制止の声が掛かる。殺気を感じた真たちはピタリと足を止めた。相手の姿は見えない。
続いて女の声。英語でなにか言っている。聞き取れない真でも友好的ではないのは分かった。
「待って! 私です、セドナです!」
「セドナ?」
「あ、ホントにセドナちゃんだ」
岩陰からひょっこりと顔を出したのは真と同年代の少年と少女だった。
「無事だったのねアルバ、澪」
二人はセドナの知り合いのようだ。
ということは彼らは里の住人だろう。
「すまない、お前が帰って来るまで保たなかった」
「里取られちゃったよ…」
「ううん、私の方も遅れてごめんなさい。ところでお父様は無事?」
「長なら奥だ。特に怪我もしていない」
「そう、ありがとう」
「ちょっと待った。彼らは?」
奥に行こうとしたセドナをアルバが呼び止める。
彼は真達の方をうさん臭そうに見ていた。
彼らがここで見張りをしていたと考えればそれは当然の反応だった。
「真さんに荒さん、それからワルドさん。みんな私の仲間だから通してあげて」
セドナがあっさりとそう言うと、アルバと澪は道を空けた。

SNSでこの小説を紹介

ファンタジーの他のリレー小説

こちらから小説を探す