Beast Master“真” 31
「で?なにしにここに来たの、ただ軽口たたきにきたんじゃないわよね」
ナイフと自分を交互に指さしながら冷や汗をかく青年に目を向けることなく地図に印をつけるエリザ
「あ、そうそう。手伝いに行けって言われて来たんだった」
その言葉にエリザが地図から青年に視線を移した
「貴方が?何故」
「しらな〜い。『あの人』もここの秘宝に関してはマジなんじゃな〜いの?」
軽く口を尖らせながら頭の後ろで両手を組んだ
「・・・まぁいいわ。もう大体の見当はつけた所だし、もしかしたら貴方の出番はないかもしれなくてよ?」
「そりゃ結構、流石はエリ姐。仕事が早い」
そう言うと近くにあったソファーに寝転がる
「じゃあ準備できたら起こしてね」
ものの数秒で寝息を立てる
「・・・私は失敗はしないわよ」
エリザが強く呟いた
岩浜の洞窟を目指して森を歩いていた真達。
しかしワルドの鼻を頼って敵を避けていたために大幅に遠回りした結果、時刻は夜になっていた。
夜の森を歩くわけにはいかず、三人と一匹は適当な場所に腰を下ろした。
「腹が減ったな」
ワルドが呟く。他の三人も頷いて同意した。
セドナの服を調達した時にレストランから適当にちょろまかした食料を食べたものの十分な量ではなかった。
水分もあまり摂れてない。
空腹と疲れから無言になる一同。
重苦しい沈黙を不意に電子音が遮る。
音の正体は真のポケットの携帯電話だった。先日、エージェントの琴乃に渡されたもので、国際電話も通じる優れモノだ。
「もしもし…」
真は携帯を開いて耳に当てる。相手は誰だかわかりきっていた。
『私よ…、様子はどう…?』
聞こえてきたのは真を日本に置き去りにした仲間・秋田早苗の声だった。
「最悪に近いよ」
少し凹みつつ状況を話して聞かせる真。
早苗は的確に相槌を打ちつつ、情報を一字一句漏らさず把握していく。
全て話し終わると彼女は少しの間黙りそして言った。
『そう…やっぱり来てよかった…』
「ちょっと待て、来てって…」
『私今ロンドンにいるの』
まさに爆弾発言だった。
「いるって、ロンドンっ、ええっ!!」
疲れも忘れて驚く。セドナ達が怪訝そうに見ているのも気にならない。
「あっちはどうするんだよ!?」
『みんなに任せたわ』
平静な声で言う早苗。真は絶句した。
日本で待っている因縁の戦いを彼女は諦めるといとも簡単に言ったのだ。
『他のみんなはともかく、私と貴方はどうしても決着を付けなければいけない相手がいないわ』
「それはそうなんだけど…」
早苗の言ったことは事実だ。ほかの仲間はなにかしらの因縁に決着を付けるために戦っている。真と早苗にはそれが無い。
「でも囚われたあの娘はおれ達の大切な仲間なんだぞ」
『そうよ…そこだけなら私達にも戦う理由はある。でも聞いて、こっちの戦いは仲間どころか世界の命運に関わってくるわ…』
世界。彼女の口からそう聞いて真はいい知れない恐れを抱いた。
『ミスカトニック大学から紛失した魔術書の中にとても無視できないものが在ったのよ…』