Beast Master“真” 30
岩浜の断崖を目指して森を歩く。
先日の森歩きで地形に慣れているせいか足取りは軽く、会話が弾む。
「ところで真さんのお師匠さんてどんな人なんですか?」
「興味あるな…聞かせてくれよ」
「え、いや…その…」
真は仲間二人からの質問に困った顔をした。おまけに歯切れが悪い。それを見兼ねたワルドが割り込む。
「最悪の男だ」
「最悪、ですか?」
「まあそんな感じ…」
「なんだそりゃ?」
「そのままの意味だ」
「できることなら今後はなるべく会いたくないな」
真とワルドの声にはハッキリと怯えがあった。
ワルドですらビビらせるその人に益々興味が湧く荒。
「一体どこのどいつだよ、師匠とやらは?」
さっきとは打って変わって直接的で具体的な質問だった。
真はまた少し困った顔をしてから答えた。
「閉ざされた森のマーリンだよ」
『えっ!?』
あまりの驚きにセドナと荒は絶句した。
マーリンといえば千年以上昔からずっと世界最強と謳われている大魔術師の名だった。
「と言っても、おれは正式な弟子じゃないからな、教わったのは武器に呪文を刻む技術くらいだよ」
マーリンは修行場所として彼の管理する閉ざされた森を貸してくれただけ。だがおかげで真はその森の狼たちの頭領だったワルドと出会えた。
それからはワルドとともに修行の日々だった。
「正直言ってこれ以上はなにも教わりたくないよあの人には」
恐ろしい修行の日々を思い出して真は背筋が震える。
「同感だ。我もあの訓練用ホムンクルスだけは二度と見たくない」ワルドも尻尾がプルプル震えていた。
どうやらこの話題は二人のトラウマに触れたらしかった。
「で、でもそのおかげで真さんは強くなったんですよね?」
慌ててセドナがフォローを入れる。もちろん本音。
「どうだろう、おれ強くなったのか?」
「我と初めて会った時よりも格段に強くなっているな」
それはお世辞などではなく、事実だった。
「特にこの旅に出てからの成長が著しい」
はずしてばかりいた銃も当たるようになった。魔術師らしく創意工夫で勝機を引き寄せる力もついてきた。
もう見習いでも新米でもない、一端の魔術師と名乗っても良かった。
「そっか」
真は自分の手を見つめる。
小さな傷跡や銃を握ってできたタコがある。それは戦いと努力の跡だった。
「この戦い、勝てるかな?」
「さあ、どうだろうな…」
その質問に関してはワルドは慎重だった。彼にはひとつ懸念がある。それは深きものどもが出てきた時からあるにはあったが、クライドの最後の言葉によって現実化してきていた。
(鍵となるのは人魚の秘宝か。それがどのようなものか確かめるまでとても言えん。世界の滅亡が近づいているかもしれぬとはな…)
目指すは岩浜の洞窟。そこで秘宝の真実を見極める。
隠れ家に向かう真達とはまた別の場所・・・
「いー・・・よぅ!!、エリ姐元気してた?」
人魚の里の地図とにらめっこをしていたエリザに、何処からか現れた黒コートの青年が片手を上げ挨拶をした
「・・・元気もなにも私はいつもこの調子よ」
エリザのそっけない態度に青年が深い深いため息をついた
「まったく・・・エリ姐美人なんだからもっと愛想良くしてもいいんじゃん?それじゃ嫁の貰い手無くなる・・・」
青年の軽口にエリザの眉が少し動き、青年の頬スレスレを霞めながらペーパーナイフが壁に突き刺さった