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光闇予言書
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光闇予言書 9

クスラルが、流れる銀髪を、ふわりと払った。払った両手で、宙にくるくると小さな円を描くようにする。
オルゴンの顔に、あらたな緊張がはしる。絶対に無駄なことをやる相手とは見えないが、何を仕掛けてくるのか、それがわからない。
「オルゴンさま」
意識の外で、ミルボロは囁いている。
「…私が、剣をとってまいります」
「馬鹿ヤロウ」
と、しかしオルゴンの口からはそう返ってきた。
「うろちょろすんな、何が起こるか知れねえときに」
「す…スンマセン」
うなだれたミルボロに、意外にもオルゴンの含み笑いが届いた。
「いや、しかし、この場で俺が剣を欲しがっておるとは、よく気づいた」
背後で、手をひらひらさせる。
「……?」
「馬鹿、あんたの剣を寄越せってんだ。持ってたって、どうせものの役にゃ立ちゃしねえだろ、現に手もかけちゃねえとくる。ほれ」
また、手をふった。
ミルボロが、その上に自分の剣を置く。さすがに、しぶしぶといった感のある動作だ。
「馬鹿ッ!」
と、しかしまたオルゴンは怒鳴って、
「普通、鞘から抜いて渡すだろう」
文句をいう。
「…気が動転してるのはわかるが、それで見逃してくれる相手じゃねえよ」
当人たちがその気のない漫才をぶっているあいだに、クスラルの手はやはり円を描くように動きつづけた。ただ、時折なにかをフワと宙になげるような手つきが入る。
いや、実際――
彼は、投げているのであった。彼自身の髪の、一本いっぽんを。
氷のごとく透き通った髪は、日をうけてきらきらと煌めくが、それ自体まぼろしと見えるほどとらえがたい。
が、オルゴンは、見た。
低く、後ろのミルボロに囁く。
「やっこさん、髪を投げてやがる。ありゃ、魔法を使う気だぜ。ヤバいな」
「ど、どうしてお分かりです?」
「髪ってのは、媒体にしやすいもんだからよ」
「はあ」
ミルボロは気の抜けた返事をしたが、内心首をひねっている。王族は魔法には手をふれぬのが通常である。…もしや、「元」王族であるオルゴンは、魔法に関してもこだわらず、いささかの心得があったりするのだろうか?
はっとして、ミルボロは訊いた。
「オルゴンさま、きゃつが魔法を使うと見抜かれたならば、きゃつそのものもどうにかできますか?」
「馬鹿ヤロウ」
と、またオルゴンはいって、
「俺じゃあどうにもできねえから、ヤバいっていったんだよ」
「はあっ?」
思わず、すっ頓狂な声がでた。
「では、では…如何にして、きゃつを…」
「慌てるな」
オルゴン、泰然たる物腰だ。
「手だてはある、助けは来る、それまでの間は、あんたに借りたこの剣で」
ポン、と剣の平を打って、
「どうにかもたせる。…いいか、俺がもたせるといったら『つもり』じゃねえ、本当にもつんだ。あんたもその気で、俺を信じてぴったり付いてこい。さもなければ、死ぬ」
ミルボロは、一度、喉の奥でしゃっくりみたいな声を立てたが、すぐに叫びだした。
「信じまする!オルゴンさまを信じまする!」

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