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光闇予言書
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光闇予言書 7

「いい、とき…」
意味もなく呟いたミルボロに、
「まあ、いいことばかりじゃあねえな」
オルゴンは話を続けて、
「どうだい、おまえさんの仲間は追い付いて来れそうかね」
「し、失礼な。あれたちは、この私の家臣団の中でも腕利き揃い…」
言いかけたミルボロの声は、そこで途切れた。いや、掻き消されたのかもしれない。
とたんに、頭上にかかった巨大な影から、絶叫のような声が降ってきたのだから。
「…おいでなすった」
面倒くさそうに、頭上を見上げて、オルゴンがいう。続けて、
「さっきより、臭いな」
「臭い?」
思わず、ミルボロが訊き返した。
「…血の臭いが」
オルゴンは答えたが、今度はミルボロの反応する間もなかった。
――どすっ!
何かが降ってきて地上にそんな音を立てて転がり、同時に樹の梢から円形にのぞいた空を、翼竜の巨躯が覆った。…ミルボロの反応がなかったのは、つまり絶句したからだ。
「ほれ」
と、オルゴンはその肩を叩いて、降ってきた者を指した。
「ありゃ、知り合いと違うかい?」
――降ってきたのは、者というよりむしろ物だ。(というのは変換間違いしたからそのしりぬぐい。と、それはともあれ!)
…が、もとは者、だったかもしれない。つまるところそれは人体の一部、端的にいえば首だった。
「おい。足元ばっかり見てると、頭の上からまたなにやら降ってくるぜ」
そんな声と一緒に、ミルボロはぐいと襟首掴んで引っ張られた。同時に、目の前にばっと赤い色が広がって、地面にボタボタと音をたてた。…一瞬おいて、鉄くさい匂いがいっそう辺りに濃くなった。
「…キョオォォ――ッ」
鼓膜を裂くような、翼竜の叫び。
「ふん?」
思案するようなオルゴンの声を、ミルボロは聞かなかった。翼竜が叫びとともに一度宙で身を翻すや、わっと天から突っ込んできたのだから、無理もない。
…それでも、
「オルゴンさまっ、…」
主?を気遣ったのは立派というべきか。もっとも、それ以上の言葉を発せられず、あとは相手の腕をむちゃくちゃにゆさぶるばかりだが。
「うっとうしい奴だ」
と、オルゴンは苦笑し――苦笑しつつ、ミルボロに掴まれていないほうの腕が一刹の風のごとく唸った!
――ばすッ!
…この音を、いささか間抜けと聞くやつは、少なくはなかろう。なんだか、アドバルーンに水を詰めたやつをぶっ刺したらこんな音が出そうだ。まあ、この世界にそんなものはないが。
「―――…!!」
声になっていない大絶叫が、…
「べらぼうめ!ぼさっとしてやがるな、来いッ!」
ミルボロの耳に、誰かの声がそう届いた。同時に、身体はひきちぎられるかと思うような勢いでぶんまわされた。
「ずらかるぞ、…」
と、いいかけた耳元の声が不意にやんだ。ややあって、
「ヤバいな」
同じ声がいった。

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