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光闇予言書
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光闇予言書 6

 気合いか、恐怖の絶叫か──どちらとも聞こえる声を喉からほとばしらせ、彼らは我と翼龍に剣を振りかぶった。ほとんど恐怖にかられて、もしくは身をすくませかかる恐怖を弾き飛ばそうとしての動作で、最初抜剣したときの冷静はすでにどこかへとんでいる。それほど、圧倒的な殺気であり、翼龍そのものの巨大さであった。
 …翼龍の背に、黒衣をまとった不吉な姿があるのには、彼らはついに気付かなかった。

「…血の匂いがするな」
 突如としてすぐそばにそんな声を聞いて、ミルボロは飛び上がった。
「あんたの連れが、くたばったんでなけりゃいいがね」
 ぎょっとして振り向いたミルボロは、そこに信じがたい光景を見た。まだ馬の背に適当くさく積んであったはずで、けして下ろした記憶はないオルゴンが、くつろいだポーズで青草の上に寝そべっている。
 明らかに彼のそのポーズは、意図的にとられているもので、ということは、気を失わされたはずの彼は、再び目を覚ましているのだ──いや、いちいちそう考えなくても、彼の目が開いているのを見れば、それこそ一目瞭然だ。
 …その、オルゴンの目がジロリとこちら、ミルボロのほうを向く。二人の視線が、ピシリと合わさった。
「…オ、オ、オルゴンさまっ」
 先に声をあげたのは、ミルボロだ。
「お、お気付きですか?」
「うん?」
 と、オルゴンはミルボロを見たまま、
「失神中だ」
「は?」
 思わず、ミルボロはそんな声を出した。…まじまじと見つめても、オルゴンの目はたしかに開いているのだが?
 間の抜けた沈黙が落ちた。耐えかねたか、
「馬鹿、冗談だ」
 オルゴンが口を開いたが、大して面白くもなさそうな口ぶりだ。
「そ、その、いつから…いや、いつの間に…」
 慌ててミルボロが今のマヌケっぷりを取り戻そうと──それとも照れ隠しなのか──いいはしたが、かえって悪循環というべきだろう。なにがいいたいのやら、さっぱり要領を得ぬ。
「ふん」
と、オルゴンはやはり小馬鹿にした口ぶりで、
「てめえの当て身が下手くそなんだよ、最初から、誰が失神なんざ」
「……」
ミルボロが沈黙したのは、呆気にとられたのだ。――これが、たとえ除籍されたとはいえ王族の台詞か?
そんなミルボロの顔をにやにやと、人の悪い笑みを浮かべて見ていたオルゴンは、適当な間を開けて、勝手に続きを話しだした。
「俺がおとなしく掠われてやったのは、だな。何もてめえのお姫様志望だったなんて理由じゃねえ」
笑うべきところとしてオルゴンは言葉を切ったはずが、ミルボロはいつまでも鈍い表情で続きを待っている。「「ばかめ」
こっそり、オルゴンは呟いてから、
「俺が掠われてやったのは、俺なりの算段あってのことだ」
冗談を諦めて、続けた。
「つまりさ、俺はここからおさらばする気でいたところだった。おまえさん、いい時に来たね」

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