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光闇予言書
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光闇予言書 5

 ──というわけで、ミルボロは自分が主君という立場なくせ、ほとんど厄介払いみたいにそこを発たされた。
「いいですかぁ〜、カトンナ山に直行するのに、一番近い町の一番大きい宿で待ち合わせましょう!…」

「カトンナ山に…直行…直行…と、なると…」
 大人しく家来の指図に従って、まず進路を決めようとしばらく行った所で地図を広げる。辺りは鬱蒼と茂る木々、そして少し離れて滔々たる河。
「スカリかな、タムラクかな」
 微妙な位置にある二つの町でまた迷って、几帳面にも定規持ち出して測り比べだした。そして、
「…スカリ、だな」
 ややあって呟いたとき、──異変は起こった!
「けええぇぇっ!」
 …あえて字に示せばそんな声が、上空に響きわたった。
「な、な、なんだ!?」
 動転して見上げた空に、
「ばかな。…ド、ドラゴン…」
 口を開きっぱなしで見送るミルボロの頭上高く、翼竜の影は、彼がやってきた方向へ飛びすぎてゆく。
「…なんだありゃあ」
 それが視界から消えてから──というのは、木の枝々のせいでつまりはあっという間だが──、ミルボロはまた、改めてそう間抜けな声をあげた。
 …翼竜なのはわかっているが、その翼竜が、こんな場所を飛んでいくわけが分からない。
 次に愕然と呟いたのはしばしの後だ。
「…竜といえば、ヘアン王国が飼っておるという…!もしや、ここ付近にオルゴンさまのいることをかぎつけて…?」
 が、そこまで推測してから、また首をひねった。
「──敵情視察のつもりか?」
 たぶん、そうだろう。スグレンティセメイヤの予言?により、互いに九選士をカトンナ山へ放った両国だから、それは大いに有り得る。ミルボロは納得して、改めてこのライヴァルに負けん気を燃やした。──が、彼は知らなかったのである。彼がただライヴァルとしか認識していない相手が、こちらにいかなる感情をもって対しているか。

 さて一方、これはミルボロらの後を追う家来たち。ミルボロの手前、ちゃんと相手を説き伏せるらしいことをいってはいたが、その実質問はすべてはねつけ、いいたいことだけ半ば高飛車に押し付けて、首尾よく?木立ちの中に馬を進ませていた。
 と、
「キエエエェ〜ッ!」
 甲高い叫びが蒼天からふってきた。いや、蒼天ではない、その瞬間、空は暗雲に覆われたように、暗く巨大な影がさした。
「…な、なんだ?」
 思わず彼らの見上げた空に──巨大な翼竜が翼をひろげていた。
 誰も、なにもいわなかった。ただ、黙って剣を抜いた。
「……」
 彼らも、ミルボロと同じ思考回路を通って、翼竜の乗り手がヘアン王国の者に違いないことを察したのだ。ただし剣を抜いたのは、ミルボロと違って、頭上の影から降りかかるような殺気を感覚したからで。
 だが、その主に似ぬ鋭さが災いしようとは、誰が思おう?…彼らが抜剣したその瞬間、飛び過ぎかけた翼竜の首が、鞭のように撥ね戻った。
「キョオォーッ」
 長くひっぱった声を発しつつ、翼が空を叩く。黄金の眼は、確実に彼らを捉えていた。竜が見せているのは、明らかに反転の予備運動だ。

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