PiPi's World 投稿小説

光闇予言書
その他リレー小説 - ファンタジー

の最初へ
 10
 12
の最後へ

光闇予言書 12

 小ばかにした口調で、しかし楽しげにいった。呼びかけが「もと王子殿下」とくれば、もちろんオルゴンの素性を、「九選士のひとり」という以上に知っているのだ。まあ、わりと調べやすい素性なのはたしかだが、それでもこの少年の――というより、その背後のヘアン王国の周到さも推して知るべし。
 ただ……あいにくと聞いているほうは、そんなことを考えるどころではない。というより、聞くどころですらない。
 クスラルのほうも、あまり聞いてもらうことは期待していないらしく、オルゴンの奮闘ぶりを眺めつつ、その「もと王子殿下」とは思えぬ野卑な罵りを聞きながしつつ、独り言のように呟く。
「だが、どうするつもりだ? その剣で、まさかこの氷の柱は叩ッ斬れまい、氷の壁は撃ち砕けまい…」
 たしかに――オルゴンに弾かれ、躱された氷片は、地に落ちたところで成長していた。あるいは木のようにふとい、まさに「氷柱」というにふさわしいものへ。あるいは水の上に張ったもののごとく、たいらに立ちはだかる氷の板へ。
 しかもそれは、二重に三重にかさなりあってゆく。
「くそったれ、汚ねえクソ餓鬼めが! 一般人相手に、いきなりドラゴンで突っ込んできたあげく、問答無用で魔法しかけやがって! てめェにゃ恥を知る心ってのがねぇのか、畜生が……」
 戞、と音がして――オルゴンの声が途切れた。ミルボロに「本当にうるせえ」といったくせ、それ以上にわめきちらしていた、その声が。
 音は、振り回していた剣が氷壁にぶつかった音だった。ただし、オルゴンにしてみれば、渾身の力を剣にこめて壁を崩そうとしたのだったが。
 しかし、クスラルのいったとおり、氷壁は剣では破れなかったのである。そればかりか。
「……うおっ!?」
 犬が吠えたみたいな驚愕のさけびをあげて、オルゴンは剣を放し、跳び退った。
 罵言が途切れたのはまさにこのさけびをあげたためだったのだが――剣は、わずかに壁にくいこんだ瞬間、凍りついていた。というより、壁から生きもののように氷がはい上がってきて、またたく間に中に剣を取り込んでしまったのだから、気味がわるい。
「……」
 愕然と氷漬けの剣を――抵抗のための唯一の武器であった剣を――見つめるオルゴンのとなりで、
「うう……オル…ゴン、さ、まぁ」
 こちらは間がわるくミルボロが正気にもどって、
「あ、その剣は――いったいどうなされたことで――…うぉえっぷ」
 ……最後の変な声は、吐いたのだ。さんざん振り回されて、酔ったものらしい。
「うげえっ」
 ――まだ半分放心状態のまま、オルゴンが吐き出されたナニから身を避けた。

SNSでこの小説を紹介

ファンタジーの他のリレー小説

こちらから小説を探す