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魔術狩りを始めよう
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魔術狩りを始めよう 9


 何度目かの朱珠が、闇の中に散る。
 恐るべき事に、女は未だ紙一重で少女の猛撃を避け続けていた。しかし、服は全身既にずたずたに裂け、掠り傷がじわじわと増えてきている。
「それにしても」「本当に」「よく」「続くわね」「一思いに」「楽になっても」「良いものを」
 少女の速度も、戦闘開始から比べ物にならないほどに加速している。残像が無数の姿を作り出し、最早視覚は当てにならない。
(クッ……血が体力を奪っていく。このままでは、いずれ――)
 四方八方、無慈悲なまでに冷徹な死を与えようとしてくる刄をくぐりながら、女の心に小さな諦観の念が生まれた。
 それは瞬く間に大きく広がり、侵食し、蹂躙し、女の動きまでも乱し始める。
 目に見えるほど動きは鈍っていないが、逆に加速していく少女によって、もはや掠り傷程度ではない傷が刻まれていく。
 死がすぐそこまで迫っていた。

 ――――死?

 ドグン、と自分の中で何かが波打った。
 それは、他人の、そして自分の死を切望している、すべてを切り裂く死の刄。
 それは、女自身の存在のカタチ。
 ドグン、ドグン――――
 それは次第に速度を増し、怒涛の如き衝動となって女を内側から突き上げる。
(フッ、フフッ……)
 女の中で今、確実に何かが変わった。込み上げる衝動は声となって迸る。
「フッ、ハハハッ、死か! この私が、死ぬか! 面白い、実に面白いっ!」
 狂ったような哄笑が闇に響く。昏い狂想曲が更に加速する。
 少女はそんな女の様子などお構いなしに休みなく刄を振り続けるが、女の哄笑は止まらない。
 幾度となくその身に傷を刻まれながら、その顔に浮かぶのは狂える歓喜。
「ふふふ」「ほらね」「やっぱり」「あなたも」「すっごく」「楽しい」「でしょ?」
 その時、不意に女が眼前に迫る刄へ一歩を踏み出た。
「――――」
 女は何事か小声で呟きながら黒刃へ手をかざし――無造作にそれを掴んだ。
「「「っ!?」」」
 驚愕に歪む少女達へ女がニヤリと笑むと同時、硬質な音を立てて掴まれた刄が二つに折れた。
「嘘…」「生身の」「あなたが」「どうやって」「この刃を?」
 少女達が動きを止めたのは、一瞬。しかし、その間に女が伸ばした手は、少女の一人の頭を捕えている。そして――
「こうやった」
「あ―――」
 悲鳴をあげる暇も無く、頭部に女の指が食い込む。と見えた時には、少女の頭は骨の砕ける嫌な音を立てて砕け散っていた。

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