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魔術狩りを始めよう
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魔術狩りを始めよう 6

 少女の身体を放り出して咄嗟に飛び離れるが、僅かに遅かった。左頬に浅く数条の赤い線が走る。
「私とした事が、油断したか……だが、乙女の柔肌を傷つけた代償は高くつくぞ」
「フン、そんなもの、私から見ればオバサンと大差ないわよ」
 声の主は、女が元居た場所に佇んでいた。そして、その顔はかの少女のものと全く変わらないではないか。
 見れば、女がそれまで調べていた身体はどろどろと形をなくし、少女の影に吸い込まれていった。
「ふふ、驚いた?」
 少女の小馬鹿にしたような笑みへの返事とばかりに、女は予備動作もなく地を蹴り一気に間合いを詰めて拳撃を放つ。
 完全に不意を突いた形だが、それも少女の周囲の地面から生えてきた黒い腕に難なく受け止められる。
 そのまま逆に腕を掴まれそうになり大きく後ろに跳び退くが、着地と同時に背後から衝撃を受け、体が僅かに宙に浮いた。
「ぐあっ!」
「あらあら、口ほどにもないじゃない?」
 そして、あの少女の声。
 背中の痛みを無視して振り返ると、先刻の姿のままで少女が笑みを浮かべている。
「ほらほら、どうしたの?」
「私はここよ、捕まえてごらんなさい」
更に、周囲の地面から少女が続々と姿を現す。前後左右、完全に包囲された女を少女達がじわじわと追い詰めていく。
「さぁ、さっきのお礼をしなくちゃね」
「簡単に気絶しちゃイヤよ。あなたは私の新しいオモチャになるの」
そう言って少女がどこからともなく取り出したのは、黒光りする柳刃庖丁だった。
「ふっ……悪いが、女に迫られても少しも嬉しくないんでな」
 こんな状況でも、女の皮肉めいた口調は変わらない。
「あら、そんな」「連れないこと」「言わないで」「人生最後の」「遊ぶ機会」「なんだから」「一緒に」「ゆっくりと」
『遊びましょう!』
 その声を合図に、すべての少女が女に襲い掛かってきた。
 速さこそ獣には劣るものの、そんなことは周囲を囲まれているこの状況では、気休めにもならない。
「ちっ……! おい、お前! これ以上世界を歪めると、『異界』に心を喰われるぞ!」
「大丈夫よ」「だって」「こんなに」「楽しいんですもの!」
「くぅっ……!」
 四方八方から飛んでくる黒い刃を、それでも女は神業のように避け続ける。だが、それは同時にこちらからの反撃も封じられているという事に他ならない。
 いや、むしろ生身の女のほうが体力的に不利だというのは自明である。
(あの馬鹿――どこまでフツノを取りに行ったんだ……!)
 女の心中の疑問に、応える者はいない。

 その頃、若月は――あの巨大な『獣』に追われていた。

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