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魔術狩りを始めよう
その他リレー小説 - ファンタジー

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魔術狩りを始めよう 5

 獣と人。当然、彼我の距離は一瞬でほとんど零になる。
 そして爪がその身を裂く刹那、女は素早く右手を振り、掴んでいたモノを少女に向けて投げ付けた。
 放たれたそれは、女の狙いどおりに真っすぐ空を切る。
 少女もそれには即座に気付いた。だが、向かってくる何かを獣で防ぐべきか判断しかねたのか、獣の動きが僅かに鈍った。
 そして少女の両目が驚愕に見開かれる。その瞳に映るのは、女物の腕時計。
 同時に自分が、小さな、しかし確実に隙を見せてしまったことに気付き、少女の顔が焦りを帯びる。
「ハァッ!」
腹腔からの気合と共に、女は獣の鼻面を蹴り飛ばす。
その勢いで強引にベクトルを曲げ、一気に急降下する。と見えた瞬間、女は少女の目の前に軽やかに着地した。
咄嗟に逃げようと身体を翻しかけた少女の表情が、再び驚愕へと変わる。
「ちょっと、何よ!? 身体が動かな――」
首だけで振り向いたところに、女の微笑。

「さぁ、良い子はおねむの時間だ」

鳩尾に当て身を喰らい、少女の意識は闇に呑まれていった。


「……ふぅ」
 気を失い倒れこむ少女の体を受けとめ、女は安堵したようにため息を吐く。
「せせ先輩! 殺しちゃったんですか!?」
「バカか……。一発で殴り殺せるような非常識な腕力など持っていない。少し眠ってもらっただけだ」
 慌てて駆け寄ってきた若月を軽く睨み付けながら、少女を地面に寝かせる。
 その様子を見ていた若月が、感嘆の声を漏らす。
「……うわぁ、この娘こうしてよく見ると中々……」
「若月、貴様が感想を持つのは勝手だが、倫理や道徳やらに反するなよ」
「…………はい」
 女の声音に何を感じたのか、若月は冷や汗をかきながらこくこくと頷いた。それを一瞥すると、女は少女の身体をごそごそと弄り始めた。
「せ、先輩?! 何やってるんですか?!」
「身体検査だ。今のうちに仕込んだ武器やら持ち物やらを改めておく。それより若月……」
 向けた視線は、抜き身の刃のように彼を射抜く。
「……いつまで見ている気だ? さっさとフツノを回収して来いっ!」
「すすすすすみませんっ!」
 顔を紅潮させてくるりと踵を返し、先程フツノが沈んだあたりへと走っていく。
「全く、乙女心というやつが分からん無粋者が…」
 等と言いつつ、手早く全身を改めていく。乙女心もへったくれもない。

 しばらくの後、あらかた持ち物を調べ終えた女の表情には、少なからず失望の色が含まれていた。
 携帯、財布、バスの定期など年相応の所持品は見つかったが、その中に女の期待していたモノはない。
「……持ち歩いていないのか。それとも所持していないのか?」
 誰に聞かせるでもなく紡いだ言葉。
 それに答える者はいないはずだった。

「ふふふふっ、お捜しの物は見つかりましたか?」

「っ!?」
 しかし、予想に反して返ってきた言葉。
 それと同時に停滞していた闇の中、それもすぐ側に新たな気配が形作られた。

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