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魔術狩りを始めよう
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魔術狩りを始めよう 35

「生憎、貴様のような奴らを相手するからには普通ではいられなくてね」
「なるほど。それなりに死線は越えてっか。油断は禁物だな」
 だが言葉とは裏腹に、男の表情にはまだ余裕が浮かんでいる。
 ……やはり本気ではないか。
 先の一撃は確かに迅さもタイミングも尋常ではなかったが、動きが無造作すぎた。それでも相手にはカウンターをかわす余裕があったのだ。対し御刻は、あと少し迅かったら避けられた確証はない。
 それが彼我の実力差を顕著に表していた。その前では刀と蹴りというリーチの差など大した利点にならないだろう。
「なあ。諦めようぜオネーサンよ。解ったから止まってんだろ? 力の差ってやつをさ」
「……根拠も無いのにずいぶんと安い妄想をひけらかすんだな」
「はは、口の減らない女だな。ま、嫌いじゃねぇけどな、そういうの」
 男の表情は真剣からは程遠い、完全にこちらを侮っているもの。そこに付け入る隙があるはずだ。
 ……一撃ならば打ち消せる。
 こちらには構える刀、敵に抗う力であるフツノがある。魔導書と、それに連なるものに対する天敵とも言える力を秘めた刀だ。
 その刄はあらゆる異界の法則を打ち消し、歪んだ書物により開いた“あちら”への扉を閉ざす。
 しかし問題もある。もともとフツノの器としての素養を持たない御刻では、強大すぎるその力を完全には扱いきれないのだ。言うなれば、強すぎる電源につないだ電球だ。そしてフツノの力を振るうのは過大な電流を流すことに等しい。ゆえに連続した使用はできない。
 よって一度だ。二度目は警戒されて届かせることはできないだろう。
 そのためにも、手の中にある確かな感触、かつて自分が望み、そして受け継いだ力を信じる。
 力は確かにある。信じられる。
 ならば後は全力を出し尽くすだけだ。
 ひとつ息を吐き、集中して構え直す。
 応じるよう、男もゆっくりと半身に構えた。
 おそらく、先に動くのは相手。この距離ではあの大気斬撃は隙がありすぎるため使わず、格闘で来るはずだ。そうなればリーチの差を埋めるためにスピードを生かし懐に入り、先に攻撃を叩き込むという戦法を狙うだろう。
 対するこちらは後手を狙う。迅さで先手争いをするより、相手の接近に合わせて動き、相手の一撃よりも先に迎え撃つ。刀のリーチを生かす戦略だ。
 どちらもお互いの戦闘スタイルの長所を生かす型で挑む。そのことは相手も解っているはずだ。手の内が解りあっているのなら、ぶつかり合った際の迅さで勝負が別れる。
 先に懐に入られるか、その前に御刻が一撃を入れられるか。
 相手は強い。だが折れる訳には行かない。心が飲まれれば、それは迷いとなって動きを縛る。
 だから、刮目して男を見据える。
 張り詰めた空気が、沈黙を含んで御刻の神経を刺激する。
 時が停止したような数瞬を経て、
「――行くぜ?」
 戦闘再開の動作は、予想どおりに男の方から始まった。

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