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魔術狩りを始めよう
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魔術狩りを始めよう 34

 恐怖はある。相手は殺人犯だ。しかしそれは漠然としており、疑問を止めるまでには至らない。だから問うべきではないか。
 だが、その思考をさえぎるように御刻が、
「何のことだ」
「つれないねぇ。ま、別に素直に答えなくてもいいけど。魔導書さえ置いてけばな」
「……魔導書だと? すでに“あちら側”に触れている貴様には無用ではないのか」
「はン、言う必要はあるのかよ?」
 小馬鹿にしたような男の口調に、御刻はさらに視線を鋭くして答える。
「確かに無いな。貴様が何を企んでいようとここで終わるのだからな」
「おいおい、ぱっと見たトコ、アンタそんなに“あっち”に喰われちゃいねーだろ? それじゃあオレには勝てねえよ」
 男は仕方なさそうに苦笑する。
「いくら巧く歪みを使いこなせてもな、凡人には越えられねえ壁ってのがあるんだからな」
「……まるで己が非凡だとでも言いたげだな」
「まあ、とりあえず普通じゃあねぇ――なっ!」
 最後のひと息とともに男は右足で地を強く踏み付けた。ズダンッ! と、ありえないほど大きく鳴った足音で、大気が揺れた。
「っぁぁああああ!!」
 その音にかぶせるように咆哮。
 その叫びに応じるように男の足元の空気が先と同じように揺らめいた。その揺らぎは一瞬で広がると御刻と男の間の空間を占め、
「っ――!?」
 一気に炸裂した。
 強い風が吹き付け、その圧の大きさに若月は目を閉じよろめいた。
 一方の御刻は咄嗟に背後に跳んで直撃は避けたものの、若月よりも至近で烈風を受けたために同じように体勢が崩れ、片膝を付きそうになる。
 その期を逃さず、瞬く間に距離を詰めた男は前に出る動きを殺さず蹴撃を放った。狙いは下がった御刻の頭、その顎を下から蹴り上げる形だ。
 完全に体勢を崩した後のコンパクトなスイング。数瞬後に感じるのは優越感と確かな手応えの筈であったが……。

ブンッ!!

「なっ……。」

「この程度で非凡、か……。余程今までぬるい環境にいたらしいな。」

どちらも感じる事は無かった。
 
 御刻は上体を反らすことで男の蹴りを避けた。そのため男の足は上に振り抜かれ、隙が生まれる。そのがら空きの身体に向かってカウンターで逆袈裟の一刀を放ったが、それより一瞬早く男はバックステップ。回避された。
 しかし仰け反っているため追撃は無理だ。
 間合いが開く。
 男の足が地につき体勢を制御すると同時に、御刻も姿勢を整えて下段に刀を構え直す。
 距離を置き再び向かい合うと、男は驚きをにじませながら嗤った。
「……すげぇな、大抵のヤツなら今ので確実にダウンだぜ」

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