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魔術狩りを始めよう
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魔術狩りを始めよう 36

 強烈な踏み込みでほとんど前傾姿勢になりながら走りを開始。
 男が一歩を踏む。
 しかしまだ遠い。体を浅く右へひねる。
 二歩目が地を蹴る。
 しかしまだ遠い。刀を居合いのように構える。
 三回目の足音が鳴る。
 こちらの間合いまであと二歩だ。息を吸う。
 四歩が踏み抜かれる。
 残り一歩。フツノを強く握り直す。
 五歩目。
 間合いに入った瞬間、御刻はためらい無しに刀を振った。
 後ろにした右足の踵で体を持ち上げるように地を蹴り、前へ出した左足へと、強く踏み込むように体重を移す。
 その動きに合わせて息を吐きながら上体を左へとひねり、肘を延ばして手首を返す。
 各部の動きは連鎖して勢いは止まらず、すべてをつなげた最先端である刀に迅さを生んだ。
 空を裂く音を後ろに置き走る刄は、男の左わき腹を狙って進む。
 あとはそのまま振りぬけば、三日月のような銀弧が完成する。
 そして、ここで負けるわけには行かない。自分には生きてやるべきことがあるのだから。
 ……そうさ……。
 迷いはない。
 ……負けるなどできるものか……!
 行った。
「――はは、いい思い切りだ!」
 男が嗤う。
 向かってくる刄に怯えもせずに。
「けどな――」
 男は六歩目を踏み込まなかった。代わりに前進の力を利用して、右からの回し蹴りとして放つ。
「――それじゃあ足りねぇなっ!」
 進路は腰よりやや上、横薙ぎのフツノの軌道を逆からなぞるような形だ。
 御刻は予想外の事態に驚きを感じた。
 男の意図が読めない。刀と蹴りならば当たり前にこちらに分がある。
 靴も何の変哲もない普通の物。少々の鉄板を仕込んでいたとしても、この勢いならば無事には済まないはずだ。その結果、不利になるのは男だ。
 思考は一瞬。男の狙いは不明だが関係ない。
 相手に防ぐ手立てはないはずだ。ならば斬るのみ。そう思い直してフツノの速度を保つ。
 だが御刻は見た。
 フツノの刃に男の爪先が当たる直前、足の周囲の空気が陽炎のように揺らぎ、
「あああああっ!」
 しまったと思ったときには遅く、咆声と共に揺らぎの空気が破裂した。
 至近で受けた衝撃がフツノを伝い腕にひびく。
 こちらの斬撃は完全に止められたというのに破裂の威力は相殺しきれず、余ったエネルギーでフツノが押し返される。
 抑えきれない。
 抵抗も虚しく、フツノが弾かれる。
 瞬間的に御刻は柄から手を放した。
 握ったままではフツノに引かれてしまい姿勢を崩され、無防備な半身をさらすことになる。敵を目前にして武器を手放すことはかなりの危険をともなうが、決定的な隙を見せるよりは良いと判断した結果だ。
 何とか姿勢を保って空いた両腕を体の前で交差させるのと、そこに蹴りをたたき込まれたのは同時。
 しかし構えるのが精一杯で、体を浮かす余裕もなくまともに受けた。
 打撃音。
 両腕に痺れのような衝撃が走り、受けきれず後ろによろけた。

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