魔術狩りを始めよう 33
「ものすげぇの感じて来てみれば、はン、そっちの綺麗なオネーサンはずいぶん慣れた動きじゃねぇか。アンタがお仲間かな?」
「……」
御刻は答えない。その代わりとばかりに、刀を下段に構える。
男はそれを見ても微笑は崩さず、呆れたように肩をすくめて、
「おいおい、お互い自己紹介もしてねえってのに殺伐としてんなぁ」
「どっちがだ。それに、この状況では名乗る必要もないだろう」
御刻は淡々と返す。その態度に男は苦笑。
「ごもっとも。――死に逝くヤツの名前に興味なんてねぇしな」
声、仕草、表情。そのすべては普通の範疇にあり、おかしいところはない。そのはずなのに、若月には目の前の男が“歪んで”いるように感じた。
まるで、人ではないモノが人の皮をかぶっているような違和感。
そしてそれは、お守りから感じたもの、空気が揺らめく直前に感じたものと非常に似ている。
……つまり。
さっきの台詞と合わせて考えれば、あの空気が破裂した現象はこの男が原因ということだろうか。
「――ん? ……おい、そこの坊主」
今まで目に入っていなかったのか、今更のように声をかけられた。
「お前、もしかしてこの間のガキか?」
「え……?」
何を言いだすのか。こんな奇妙な雰囲気の男と会った記憶なんて無い。今日が初対面のはずだ。
「ははっ。月のねえ夜だったしな、顔は見えなかったか?」
「……そうか貴様が」
そのひと言で御刻は何かに思い至ったのか、鋭い視線を男にぶつけた。
「お? すげぇな、そっちのオネーサンは中々に鋭いじゃねぇか」
御刻は男の軽薄な態度を無視して、半ばにらみつけながら問う。
「――答えろ。貴様の目的は何だ?」
「残念なことに言えねぇんだよコレが」
「なるほど。……言えないということは、やはり気紛れではないのだな。若月を見逃したのは」
「っと、――はンっ、本当に鋭いじゃねえかアンタ。ああそうさ。ちょいと訳ありでな」
「えっ? ……ってことはまさか――」
見逃したという単語で連想するのは、とある事件。それは御刻と出会った切っ掛けであり、今こうしているのも、その事件から始まった問題を解決してもらうためだ。
それはつまり、
「――こ、この人が切り裂き魔!?」
「おーおー、ようやく思い出してくれたか? 感動の再会だな、おい」
嗤う。
途端、ぞくり、と若月の背中に悪寒が走った。目の前の人間に、本能が激しく警鐘を鳴らす。それは相容れないものであると。
「っても、これから用事があるのは坊主じゃないけどな。――そっちのオネーサンだろ? さっきのは」
おもむろに御刻の方に視線を移し問う。
「さっきのって……」
若月は思わず呟いた。
お守りから感じたこの世のモノではない何か。この男もそれと似た雰囲気をまとっている。
……つまり、あの変なモノをこの人も感じた?
それにこの口振り、この男は何かを知っているかもしれない。