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魔術狩りを始めよう
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魔術狩りを始めよう 22

「切り裂き魔といえばやはりまず思いつくのはロンドンの『切り裂きジャック』。未だ解決を見ないが故に様々な解釈が出ているね。
 自作自演説や宗教儀式説なんて突飛なものもあるくらいだよ。思えば宗教的殺戮については遡る事……」
 喋り続ける観崎を他所に、若月の意識は半年前へと飛んでいた。


「もしもし、そこのキミ」
「はぁ……俺ですか?」
「そう、そこの全身全霊をして『帰宅部です』とのたまっているキミだ」
「成程、人違いのようですね。では失礼して」
「聞きたいことがあるんだけど、付き合ってもらえないかな?」
「いやあのその、急ぎますので」
「何か可及的速やかにやらなくてはいけないことでも?」
「ええまぁそれなりに……というかむしろあなたは誰ですか?」
「それも纏めて説明しよう。大人しく着いて来たまえ」
「ですから俺は……ちょっと、なんで襟を引っ張るんですか!」
「きりきり歩けぇ」
 時は半年前。若月は帰宅部としての任務を遂行しようとしていたところ、古文研部長に就任したばかりの観崎美奇にこうして強制連行された。
 行き先は無論、件の部室である。
 部室に着くと若月を無理矢理に椅子に座らせ、観崎自身は戸の前に立った。
「……あの、俺、本当に忙しくてですね」
「まあまあ、落ち着きたまえ。そう身構えなくともナニをするわけじゃないさ。大丈夫、初対面の相手には礼節を尽くすよ。……ん、なかなか横目が上手だね」
「……いきなり襟を掴んで引きずるのが最近の礼節なんですね。うわー、知らなかった。――では帰ります。どいてください」
「ところで君、ムー大陸は信じるかい? アトランティスは?」
「うわっ、堂々の無視ですか」 
 アブない。間違いなくアブないヒトだ。こういうヒトとはなるべく係わり合いにならないに越したことはない。
「キミは今、道に迷っているね? 私には分かる。さあ迷える(彷徨える)子羊よ、私がヴァルハラに送ってやろう」
「……生憎、俺は神やら仏やらの類には興味ないんですが。というか、ヴァルハラって死後の世界だったような」
「良く知っているじゃないか。それでこそ古文研に迎えるには相応しい」
 くいっ、と眼鏡を指で押し上げ、不気味な微笑を浮かべる観崎。童顔気味の彼女がやると、どことなくユーモラスな仕草である。
「……コブンケン?」
「古代文化研究部、略して古文研。キミは今まで何を聞いていたのかね?」
「今の今まで説明してくれなかったじゃないですか。むしろ怪しい宗教の勧誘かと」
「失敬な。古文研はこの学校創立以来、代々命脈を保ってきた由緒ある部なんだ。
 部員こそ少ないものの、大々的な公募をしていないからこそ純然たる学徒が集まり、日々研鑽を積んでいる。
 この部にスカウトされる事そのものが名誉だと言っても過言ではないんだよ」
 どうだすごいだろ、とばかりに胸を張る観崎に、若月は心の中で頭を抱え、
 ……怪しい宗教と変わらないって。むしろヤバい。
 そこでハッと気が付いた。さっき観崎は自分を迎えるに相応しいと言っていた。つまりは。
「! ……すすすみません、過去は振り返らないたちなんで、俺もう帰ります!」
「ほうほう、つまりは近代以降の都市伝説の発祥と拡散については興味があると、そういうことだね?」
 若月は本気で頭を抱えた。
 つい最近も怪しげな事件に巻き込まれてしまったばかりだというのに、妙な人物に絡まれた挙句、宗教紛いの講釈を聞かされる羽目になるとは……
(――事件?)
 ぎぎぎぃぃっ、と軋む音が聞こえるかのように顔を上げれば、妖しい微笑を浮かべたままの観崎が目に入る。眼鏡が光を弾いていて、その表情は読みにくい。
「……あなたは、どこまで知っているんです?」
「さて、ね。キミが若月彰(あきら)という名前で、先日切り裂き魔に襲われかけた、というくらいかな」
 ゆっくりと眼鏡を外し、観崎は続けた。
「……いや、その犯行現場を目撃してしまった、という方が正しいのかもしれないね。
 何しろ、ヤツはキミに何故か手を出さなかったというじゃないか」
「……!」
 驚愕に声も出ない若月。この事は警察以外には一切口外していないはず。ならば、彼女はどこでそんな情報を仕入れたのか?
 その若月を見て、観崎は何故か眉根を寄せる。
「……俺の顔に何か?」
「いや、やはり眼鏡なしでは見難いと思ってね」
「外さなきゃいいじゃないですか!」

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