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魔術狩りを始めよう
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魔術狩りを始めよう 21

「名前で呼ぶなんて怪しいなぁ、怪しすぎるよ?」
 言われてようやく、自分の何がいけなかったのか気が付いた。
 しかし、若月はまがりなりにも人知を越える戦闘を経験し、それを突破してきたのだ。そのスキルを生かし焦りを押さえて、冷静に言い訳を試みる。
「あ、いや、違うんですよっ。知り合いにもう一人石上って先輩がいるから、区別のために名前で呼ぼうかなぁなんて……」
「ふふ、言い訳は見苦しいよ若月クン?」
 好意が欠けらも見当たらない笑顔を前に、本能の警鐘が最大限に鳴らされる。
 ……まずい、殺られる。
「か、観崎先輩こそ、何でそんなに石上先輩のこと気にしてるんですか!?」
 若月にしてみればそれは、負に傾いていく辺りの気配を濁すため口を突いて出た、ただの悪あがきだ。しかし観崎は思いの外いい反応を見せた。
「なぜ? そんなことは簡単だよ。考えてもみたまえ若月クン。あの凛々しく常に理知的な瞳、繊細かつ大胆な思考、そして何より、あの素敵な微笑み! ――ああっ、素晴らしい……」
 さっきまでの冷たい雰囲気とは反対に、熱に浮かされたような、恍惚とも言える表情で観崎は語る。
 そのまま立ち上がると、ミュージカルさながらの勢いで回りながら手を組み、吐息を漏らしてうっとりと虚空を見つめる。
 お陰でようやく手が離れ、若月はいそいそと抜け出して距離を取る。
(そういえば、初めて先輩と会った時もこんな調子だったっけ……)
 未だ自分の世界に浸る観崎を眺めながら、若月は昼食用のパンの封を切った。
 パンを咀嚼しながら若月は御刻との出会いを思い出す。一度目はただの先輩との対面だったが、二度目は、
「まさか殺されかけるとは……」
 若月が魔導書に触れたのと同時期に近くに出没した魔術師と間違われ、あやうく狩られるところだったのだ。そして、その事件で望まずながらもフツノの『鞘』を手に入れた若月は、紆余曲折の後に御刻のパートナーとして今にいたる訳だ。
「……ん? どうした若月クン、いやに暗いじゃないか」
「え、あ、な、なんでもないですよ?」
 慌てて否定しては何かあったと言っているようなものだが、観崎は違う方向で解釈したようだった。
 両の手の平を音を立て打ち合せ、
「なるほど。古文研の一員としてもう一つの噂が気になって、食事も喉を通らないんだろう? いや、言わずとも分かるさ。私でも気になるからね、――切り裂き魔が再び現れたという話は」
「え……!?」
「半年前に一度途絶えた都市伝説とも言えない噂が、なぜまた広がったのか。はは、興味深いね」
 観崎はそう言って笑うが、若月はそれどころではない。半年前といえば御刻と出会ったころだ。

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