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魔術狩りを始めよう
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魔術狩りを始めよう 17

 先の声とは打って変わって、静かな、しかし有無を言わさぬ女の態度に少女は下唇を強く噛む。
「……どうした? 残念だが私の気はそう長くはないぞ」
 もはや少女に打つ手はない。近辺の影は全て消され、残った辺りから集めようにも、その前に霜剣が喉元を切り裂くだろう。
「……分かったわ」
 背に腹は代えられない。少女は若月の足下に意識を向けその部分を固め、さらに陥没を元に戻す。
「先輩ーっ!」
 解放された途端に駆け寄る若月。その無事を横目で認め、女の表情から一瞬だけ、本当にわずかだが険が薄れた。
「全く、手間をかけさせる。まぁ、お前らしいといえばお前らしいが――」
 口元から僅かに漏れた声。
「へ? 先輩、今何か言いました?」
「な、何でもない。お前が一手間増やしてくれたお陰で余計な時間を食った、それだけだ」
「う、そ、それは……」
 露骨にへこむ若月。一つ息を吐くと、女は改めて剣を握る手に力を込めた。
「さて、幾つか質問させてもらおうか。素直に答えれば良し、さもなくば――分かっているな?」
 こくん、と微かに頷く少女。最早戦意は喪失したのだろうか、後ろにあった3頭の獣の気配も消えている。
「さて、まずは一つ目の質問だ。駆け引きなど無意味だろうから単刀直入に聞くが、魔導書に触れたのはいつごろだ?」
 少女はすぐには答えず、僅かに不快そうに眉を寄せ、
「……だいたい三ヵ月ぐらい前よ」
 吐き捨てるように呟いた。
「三ヵ月前、魔導書が教えてくれたのよ。ワタシには『力』があることを。だから奪う側に回った。ワタシの両親を奪ったやつのように、今度はワタシが奪う番なのよ!」
「……何?」
 女の表情が再び険を帯びる。魔導書に直に触ったということは、即ち魔導書がこの近辺にあるということを示す。
「両親を奪われた、と言ったな。それは魔術絡みの事件だったのか?」
 ぶつぶつと呟きながら拳をきつく握り締め、少女は呟く。
「そうよ、パパとママがワタシに断りもなく世界から消えるなんてコトがあるわけがないのよ。ええ、あってたまるものですか!」
 その言葉と共に、若月が先程まで囚われていたあたりの影が盛り上がり、二つの人型となった。
 大人の男女だ。驚くことに、頭髪の一本まで完全に再現されている。
「パパ、ママ、絶対にどこか行っちゃイヤ。ずっと、ワタシと一緒にいて……」
 ただ無心に自分の作った土人形にパパ、ママと呼び掛ける少女の眼には、もはや女は映っていなかった。
「先輩……この娘」
「……限界、だったらしい。突然両親を失った失意や、歪みに浸食されて変質していく自我を何とかつなぎ止めていたのは、魔術師としての有能感だったようだな」
「それを、オレたちが壊した……?」
 茫然と呟く若月には視線を向けず、
「さあな。ただお前が気に病む必要はない。どうあれこの娘の両親が死んだという事実は変わらない。魔術に関わらなくとも平常でいられたかは分からないんだからな」

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