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飛剣跳刀
その他リレー小説 - ファンタジー

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飛剣跳刀 78

(それにしても……)
 記憶をたどれば、自然、現在にたどりつく。
(問題は、ここからどうやって、あの化物野郎に見つからずに外に出るか、だ)
 丁霊龍は、もうさっきの場所から離れたか? だとしたらどこにいるのか?
(畜生、この暗い中で命懸けってのは笑えねえよ。さっきも、……ああ、おまえのおかげでやっと九死に一生だったんだよな)
 思い出したのは頭を掴まれたこと、「おまえ」とはもちろん、砂蜘蛛である。
「おまえの毒、すげえもんだったんだ――けど、頼むから俺にゃ噛み付いてくれるなよ」
 ティンバロに応えるようにもそもそと身動きした砂蜘蛛は、不意にピョンと地面に飛びおりた。
「おわっ?!」
 いままでにない動きだから、どうも、攻撃するのを見たあと――しかも、毒のおまけつき――では、思わず身構えてしまう。
 蜘蛛はその場でしばらくじっとしていたが、ややあってするすると通路を進みだした。……ティンバロが来たほうではなく、どこへ続くともしれぬ、暗闇の奥へ。
「お、おいっ、置いてくなよ……てか、おまえ、なんでそっちに入ってくんだ?」
 慌てて、ティンバロも蜘蛛を追った。
 不思議なことに、蜘蛛の這ったあとにはうす碧くひかる細い線が残った。蜘蛛はすすみながら糸をはき、その糸が発光しているのだ。
「……へえ」
 感心したティンバロは、落ち着きをとりもどして、蜘蛛本体よりもその糸を追い、たどった。先程まで、どこへ続くか知れぬ地下通路になどに入りこむなどごめんだと思っていたのに、好奇心があたまをもたげるや、そんな注意深さはどこかに吹っ飛んでしまっている。
 ただ、注意深くないという点で城太郎やニルウィスを上回る一方で、運に関しても、彼は二人のはるかに上だったらしい。
 さほどもたたぬうち、彼の耳はある音をとらえていた。蜘蛛の向かう先から、かすかに、反響しつつ届いてくるのは、
「音楽……?」
 と、判断するしかない。もっとくわしくいうならばそれはハープの音色だったのだが、そこまで判断する知識も教養も、ティンバロにはなかった。
 しばらく行くと、その音色にまじって、かすかな歌声までもが聞こえだした。もはや、遠からぬ距離からのものと明らかなのに、たえだえにしか届かぬのは、どうやら歌う人物が、よほど声をひそめているものと思われる。
 蜘蛛は、まったく止まることなく、やがて枝わかれした通路にさしかかっても、迷いもせずにそのうち一本を選び、入ってゆく。
 ティンバロは後ろをふりかえり、自分が歩んできた路に、蜘蛛の糸がなお光をはなって残っているのをたしかめた。
(もし迷いかけても、こいつを辿って帰れるわけだ)
 うなづいて、やはり通路に踏み込んだ。蜘蛛の糸がはなつ光は、かすかながらも壁のあちこちで反射して、周囲はごくおぼろげに薄明るい。
 突然、ティンバロは壁で光を撥ねているものが、自然にそこにあるのではないことに気付いた。

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