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飛剣跳刀
その他リレー小説 - ファンタジー

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飛剣跳刀 76

 光は、そこからの反射だろう。水には光の強いほうへ向かう流れがあった。……上の洞窟から水路に落ちたときの水圧がいつまでも弱まらないと感じたのは、じつはこの流れのせいだったのだ。目をつむっている間にかなり流されたらしく、振り返っても、水路の天井にそれらしき穴は見えなかった。
 城太郎は流れに逆らわず、ひたすらニルウィスを放さぬよう腕と指先に力をこめた。足では、懸命に水を蹴る。水路は天井までひたすら水の通り道らしい。つまり、息を継ぐためには、光の下へ――この水路の切れ目へ出なければならないのだ。
 しかし、目を開いた直後には、少し流されるやたちまち周囲の明るさが変化してゆくように思われたのに、どうしたことか、空気を求めて自分で水を蹴りだしてから、ひどくその変化が遅くなったようだ。ゆくての光が少しも近づいてこないのに、城太郎は焦燥をつのらせた。
 次第に胸が圧迫されているように苦しくなり、やがてそれは鈍痛に変わった。しゃにむに前へ進もうと足をばたつかせたが、足は本当に動いているのか――手に力が入っているのはわかる、ニルウィスの身体はまだ城太郎から離れていない――
 突然、城太郎は自分が周囲に現実味を覚えていないことに気付いた。
 ――ここで、息ができずに死ぬ、そんなことがはたして有り得るのか? だいたい、この水路のような不思議な場所が、現実に存在するのか? 不思議といえば、さっきまで歩いていた迷路もそうだ……オアシスも、砂漠も、シャリビアも。
 これは、夢か。いったい、「現実」では、自分は何をしていたのだったか。
 しばらく前、似たような気分に陥ったのはどこでのことだったろう――あれは結局夢だったのか、そうでなかったのか?
 すべてが、おぼろだ。
 鮮明なのは、口からごぼりと出て、目の前をよぎった泡だけだ。力がぬけた身体がぐうっと持ち上がった感覚も、目の前の光がどんどん眩しくなっていって真っ白になった視界も、どこか紗のむこうのもののようだ……
 この夢は、たぶん今醒めるところなのだ。
 ――だしぬけに、水がひどく大きく撥ねる音、そして誰か少女のものらしい悲鳴が、どこかから聞こえた。
 それを、芙蓉のものかと思い、すぐに違うと気付いていいようのない哀しみを覚えたのを最後に、彼の意識は途絶えた。

 一方――遡って、ティンバロである。
「しかし、暗いな〜、ここ」
 彼はぼやきながら、迷路をさまよっていた……いや、さまようというのは正しくない。彼は岩陰に身をかくしてしゃがみ込んでいたのだから。
 丁霊龍はしばらくして毒をぬきおわったら、自分を追ってくるだろう……そう思われたものの、あまりわけのわからぬところを――いまいる場所にくるまでも、四ヶ所も枝道があった――うろうろはしたくなかったのだ。
 彼は、丁霊龍が自分を捜しに迷路に入ってきたのをやり過ごし、落ちた地点にもどるつもりだった。

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