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飛剣跳刀
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飛剣跳刀 75

 なにか、足に引っ掛かったらしかった。
「いま行くから……慌てないで、怪我しちゃ大変だ」
 城太郎が落ち着いた――というか、単にいつもどおりに間延びしているだけかもしれないが――声をかけると、ニルウィスはようやく、めちゃくちゃにもがくのをやめた。
「えっと……何ともない?」
 尋ねる城太郎に、こくこくとうなづいてみせる。
「だ、大丈夫よ、なんだか急に足元が崩れて――でも、怪我はしてないし、もう……ほら、足も動かせ……ああっ!」
 今度は、何事か?
 いや、今回は訊くまでもなかった。
 ニルウィスが「ほら」と足を動かした瞬間、辺りはそれまでの薄闇から、月あかりの下ほどの明るさとなっていたのだ。光は水底の岩の割れ目からもれていた。
「え……」
 驚きのあまりそれだけしか声が出ず、城太郎は目を瞠った。
「光だわ」
 ニルウィスがいったのも、いわでものことだ。
 しかしそれは、二人が呆然としたのも当然の、幻想的な光景であった。ニルウィスは憑かれたように淡い光の漏れてくる足元の岩の割れ目を見つめたまま立ち尽くし、城太郎も火に誘われる虫のごとく、ふらふらとそちらへ近寄っていった……
 みし、とも、びし、ともつかぬ音が足元で鳴ったのはそのときだ。
 音よりも、足裏に異様な感覚をとらえて、城太郎は瞬時に我に返ったが、しょせん手遅れだった。
「あ、あぶない!」
 叫んでニルウィスを支えたのがせめてもだが、さて支えてどうなるというのか――二人の足元はもろともに沈んだ。同時に周囲の水が押し寄せてきて、水圧で身動きがとれない。
「嫌っ、あ、あ、あ――…っ」
 引き攣れたような喘ぎがニルウィスの喉からもれたかと思うと、彼女はがくりと気絶してしまった。
 多少はこれまでの心労もあるだろうが――
「ええっ? おい、しっかりしてくれ!」
 取り残された形の城太郎は大いにあわてた。……タイミングがあまりに悪い。
 だが、その瞬間、彼の主観ではそう思われたことが、実は直後に起こることを思えば幸いだったのである。
「うわっ!」
 水圧に耐え切れず、ニルウィスもろとも城太郎は水中に倒れ込んだ。城太郎は例によって動物的な反射で、水に入る直前とっさに息を吸い込み、ついで止めたが、ニルウィスがもし失神していなければ、彼女のほうは確実に水を飲んでいたろう。
 倒れ込んだ刹那、城太郎の真下の水底が粉々になった。岩といっても泥が圧し固められたものであったらしい、おかげで二人は重い石塊にぶつかられることはなく、ただ水底のさらに底に沈んでいった。
 城太郎は頭が水に入った一瞬、目をつむったが、いつまでたっても身体をおしてくる水圧はゆるまらず、頭上に手を伸ばしてもただ固い岩石の壁にふれるだけだから、思い切って目を開けた。
 とたんに、さっきよりも何倍も明るい光が飛び込んでくる。依然水の中には違いなく、まわりは全て岩壁だが、この水路はどこか近くで地上に出るのだ。

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