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飛剣跳刀
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飛剣跳刀 74

 えらくあっさりとニルウィスはいった。
「でも、どうやってここまで来れたの? 出口が近いのよね?」
「へ?」
 城太郎はキョトンとした。
 ニルウィスが、水を跳ね返して浴びながら、
「だって――わたし、あなたが見えるわよ。最後は、もう……」
 何を思い出したのか、ぶるっと身を震わせた。
「……ほんとだ」
 城太郎も、ようやく気付いた。今まで水にばかり気をとられていたが、たしかに城太郎にもニルウィスの顔が見えた。どこからか、ぼんやりとした照り返しが二人の輪郭を浮かびあがらせている。
「どこから、だろう……」
 明らかに今はじめて気付いた様子で、バシャバシャと水の中に踏み込む城太郎を見て、ニルウィスもあらためて、光の出どころを探し出した。
「ああ、そうだ、きみの剣――」
 途中で城太郎が、本来の話題を思い出していいかけたが、
「それね、もう、いいわ」
 とニルウィスはさえぎった。
「え、でも……」
「気が遠くなるまえのこと、ちょっと覚えているけど――落ちてしばらくは剣を持って歩いてたけど、途中から、手があいてた気がするもの」
「……」
「きっと、暗闇が怖いと感じてから注意力が落ちて、剣が手から離れたのに気付かなかったのよ」
 しばらく、城太郎は黙っていたが、
「けど、仇討ちするのに武器はいるんだろう?」
 と、いいだした。
「俺――あの、いまは、濡れててひどいことになってるから、そのままじゃないけど」
「?」
 何の話か先にいわないと、何がなんだか解らないに決まっている。ニルウィスが訝しげな顔になったのも当然だ。
「あー、つまり、ちゃんと手入れしたら、俺の刀、貸すから――使い方も、良ければ教える」
「……そう」
 ニルウィスは、ちょっと俯いた。
 思い出すだけでも恐ろしいあの暗闇の中を、ここまで連れて来てくれた――それだけでも感動せずにはいられないのに、それはちっとも恩に着せず、こちらの得物の心配までしてくれるとは。
 俯いたのは、感激で涙ぐみそうになったのを隠すためだ。ふるえる声で、
「でも、その前に、とにかく出られるところを探さないと」
 全然別のことをいって、相手の気を……同時に自分の気をもそらそうとする。
「たしかに」
 素直にいった城太郎が、また水の中を歩きだした。
 しかし、いくら探しても、あたりの岩壁に、光の出どころらしき割れ目はない。
「なんでっ、なんで光は見えてるのに……出口がないの……」
 ニルウィスが癇癪を起こし、直後に絶望して泣き出した。水に濡れるのもかまわず(もともとずぶ濡れでそれ以上濡れようがないのもたしかだが)、へたりこむ。
「大丈夫だよ、かならず……」
 城太郎はなぐさめようと話しかけたが、それは、
「きゃっ」
 というニルウィスの悲鳴に遮られた。
「な、な、なにっ? いやっ!」
 叫びつつ、彼女は立ち上がろうともがいている。

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