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飛剣跳刀
その他リレー小説 - ファンタジー

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飛剣跳刀 73

 ありきたりな起こしかた、というのに一瞬納得しかけた城太郎だが、
「いや、そうじゃないったら! 水が……」
 それどころではないことを再び何とか伝えようと必死になった。
 なのにニルウィスは、
「だから……ほっといてよ、わたしは、眠い……の……」
 まだそう主張している。
 業を煮やした城太郎は、もはや説得は面倒とばかり、強引に彼女の身体を抱え上げて、水音の聞こえるほうへ歩きだした。
 火事場の馬鹿力というが、もとの力が強いぶん、こちらもただの馬鹿力ではない。いままで以上に軽々とニルウィスを運びだしたのはもとより、常人以上にそなわっている動物的感覚もまた、ふだんの数倍するどくなっていて、彼はほどなく、ひとつの枝道がこれまでにくらべてひんやりと湿っているのを見つけた。
 そこを奥へ進むと、足元がしだいにぬかるみだし、すぐに泥水を跳ね上げなければ進めなくなった。
 思わず歩を早めた城太郎の脚がそこで不意に膝までぬれたのは、そこで急に水位があがっていた――つまり、底が突然えぐれたように深くなっていた――ためだ。
 一瞬、ニルウィスを放りだしかけて冷汗をかいた城太郎だが、すぐに自分でも思わぬ歓声をあげて、ニルウィスを抱いたままさらに踏み込み、腰あたりまで水につかっている。当然、ニルウィスの身体も半ばまで濡れたのだが、彼女もそれでようやく、朦朧たる状態から脱して、たちまち身をもがいて城太郎の腕からぬけだすと、歓喜の叫びをあげて頭から水を浴びだした。
 二人は夢中で水を飲み――浴びるように、という表現があるが、比喩でなく、まさに彼らは水を全身に浴びつつ、飲んだ。
 そして。
「うわわ、しまった」
 城太郎のあわてた声は、水への欲求がとりあえず満たされて、我に返ったとたん、とんでもないことに気付いたせいだ。……水に狂喜するあまり、腰の刀のことも忘れていたのである。
「どうしたの?」
 ニルウィスが訊く。城太郎にはひさびさの、正気の声だ。――が、彼はそんなことに感慨を抱いている場合ではなかった。
「しまった……刀が」
 しょげ返って呟いた。
「馬鹿ねえ」
 と、ニルウィスは笑ったが、そこではっとして、
「ここ……ここは、どこなの? わたしの剣は?」
 あわてて叫んだ。
「ああ、それは、う〜んと……」
 城太郎は首をひねって、
「落っこったときはきみが持ってて――それから、ええと、きみが倒れて」
「ああ、そうだったわ。わたし、暗い中を歩いてて、それから……よくわからない……気付いたら、ここにいた――あなたが、連れて来てくれたの?」
「う、うん、まあ」
「……ありがと」

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