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飛剣跳刀
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飛剣跳刀 69

 ニルウィス自身には、いま壁に突進しかかったがごとく、さっぱり辺りは見えていない。比喩ではなく、本当に、鼻をつままれても分からぬ真の闇である。そのせいか、方向感覚も妙だ――見えなくても、さっきは壁ではない方向へ向かったつもりだったのに。
「ああ、うん、まあ」
 城太郎はまるきり緊張感のない声で答える。
「ど、どーゆー眼してんのよ?」
「っていわれても……古賀じゃあ、普通だったんだけどなぁ」
「古賀?」
「うん、俺の故郷」
 その言葉で、ニルウィスが思いだしたように訊いた。
「あんたって――ミン帝国の人間じゃない、わよね……どこの出身なの?」
「ん、ヒノモト」
 あっさり答えたのに、眼を丸くして、
「そんな、遠くから……」
 つぶやいたきり、絶句した。
 こちらも黙って、ニルウィスの手をとり、城太郎が歩きだす。引っ張られるまま、ニルウィスはふらふらとついていった。この場所に関して、彼女は完全に判断能力が麻痺していた。城太郎がどちらの方角をめざしているかということについて、もはや考えてみることすらしない。
 しばらく行ったところで、城太郎がのんびりいいだした。
「そうだ、あの……きみの故郷とか、どこから来たのかとか、あんまり詳しく聞いてなかったから、よければ話してほしいな――あと、ミン帝国のこととか。これから行く予定だから」
 さっきの会話で思いついたようだが、どうも、にぶい。が、
「これからって、あんた」
 ニルウィスが呆れたのは、そこだった。
「……ここから、出られるつもりなの?」
「出るんじゃないのか?」
 大真面目に、城太郎は尋ねかえした。
「もちろん、出たいわよ!」
 それを、「出られるつもりなの?」などという訊きかたをしたのは、この迷路をどこまで行けばよいやら見通しが立たぬのに、はやくも暗澹としていたからだが、城太郎のまぬけな質問にニルウィスはムキになった。
「出なくてどうするのよ…私だって、この先すべきことぐらいあるんだから。あいつら――丁霊龍と燕雪衣を殺して、シャリビアに帰るのよ!」
 そこでしばらく、声がとぎれた。つないだ彼女の手が震えているのに、
「――泣いてる? 休もうか」
 城太郎が、気をきかせたつもりであまりに直接で無慈悲なくらいの質問をする。
 しかし意外にも、ニルウィスは泣いてはいなかった。
「まさか!」
 かわいた笑い声をたてて、城太郎をつねりさえしたのだ。
「あいたっ」
「馬鹿なことをいうからよ」
「……ああ、ごめん」
「あんたって、ホントに素直」
「ええと――ありがと」
「べつに褒めてないわよ、むしろ呆れてるの」
「ああ、そっか」
 弱ったふうに、城太郎はため息をついて、
「でも俺、いろんな人にずっと馬鹿っていわれてるけど、それでも治らないから……とりあえず、ここを出るまでは我慢してもらうしかないなあ」

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