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飛剣跳刀
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飛剣跳刀 67

 そのがっくりを、城太郎は誤解して、
「違うのか? 出た、っていったから、外なんだと思ったんだけど」
 いかにもまっとうに、質問する。
 ニルウィスはばかばかしくなった。
「そうよ、外に出ちゃったのっ!」
「へえ……それで?」
「今話してるじゃない、いちいち口を挟まないでよ、この馬鹿!」
 ――まあ、城太郎を相手にすれば、最初は多くの人間がこうなる。あまりの鈍さに、悪意を向けられたに等しい苛だちを覚えるのだ。
 で、その苛だちを明確な悪意にしてぶつけるのだが、城太郎から返ってくるのは依然風呂のなかの鼻歌みたいにぼんやりとした反応だから、こんどはかえって無力感にとらわれる。
 城太郎がつまりただの間抜けなのだと解るのは、そうしたやりとりが何度かあってからのことだ。
 このときも、理不尽な罵声に、
「うん」
 城太郎はおとなしく答え、ニルウィスのほうは雄弁な長嘆息を吐き出した。
「……とにかく、横穴はあっちこっちに続いているし、辿っていけば地上に出られるところがあるのよ。私は――あのときは、燕雪衣に見つかって連れ戻されたけど。あいつはいったわ、『今度そこに入ったら命を落とすよ』って」
 まさか、その言葉が脅しではなく、穴がどこへ続いているか知れないため、「今回は運よく出られたけど、次に入ったら迷って出られず、中で死ぬことになりかねないよ」という忠告だとは、燕雪衣に恨み骨髄のニルウィスは夢にも思わない。
「……今回は、邪魔はさせない!」
 決然と言い切ったニルウィスは、いきなり城太郎の片手首引っつかんだ。
「行くわよ」
「ああ……う、うん」
 そうして、二人はふらふらと地下の迷宮に足を踏み入れてしまったのだった。実に、飛衛と芙蓉がそのすぐ上で出会う、ほんの十数秒まえ。
 最初、根拠もなく自信満々で城太郎の手をひっぱっていたニルウィスの歩みは、そのうちゆっくりになり、ためらいがちになり、――そして、止まった。
「……?」
 明らかになにも理解できていない顔で、城太郎も立ち止まった。もっとも、暗闇にまぎれてニルウィスには見えない。
 そして、その暗闇こそ、ニルウィスが立ち止まった理由だった。
「ちょ……ちょっと、あんた」
 震えながら、彼女は城太郎の腕を、いままでとはまったく違った意味で掴みなおした。龍王窟の横穴へ入ったときは灯を持って入ったのに、今回はそれを忘れていたのを後悔しながら。

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