飛剣跳刀 66
――もちろん、「大切な人を殺されて、そいつが反省したら許せるわけ?」ということに関してだ。
それにしても、飛衛は燕雪衣の質問に、「あまりよく知らぬ相手を一概に悪党と決めつけることはすまいが、たとえば野営地の連中を雪衣どのの夫君が無造作に、無慈悲に殺すところを見れば、――あやつとて悪党と思おうな。そしてそう判断すれば……殺すを辞さぬ心になる可能性は、無きにしもあらず」と答えたが、実際は、弟子は師の想像以上にのんびりしていたということになる。それとも穏やかだったというべきか?
「……そうだなあ」
城太郎の思考を、
「馬鹿、誰もあんたの意見なんてうかがっちゃないわよ!」
あまりといえばあまりな言葉でニルウィスは遮った。
実際、彼女のつもりでは、さっきの台詞は疑問ではなく反語であったから、たしかにそうなるのだ――が、城太郎にはそれを読みとるすべも能もないのだから、やっぱり苛酷だ。
が、それに対して、
「うん、わかった」
全然、抗議もせず、不満もにじませず、城太郎はうなづいて、
「じゃ、俺から訊いてもいいか?」
これまでと同じ調子でいいだした。
「きみ、さっき、穴から出るのに『ここからはイヤ』っていったよね? 上へあがれるとこが、どこかあるってことなのか?」
「あ」
ニルウィスはその話題を忘れていたらしい、そんな声をあげてから、
「ええと……その、たぶん」
自信なさげに首をかしげた。が、
「たぶん、って――?」
弱った口調で城太郎が訊きかえすや、
「あるのよ」
断固としていいきった。
「師父――いえ、もうあんたしか聞いてないし、呼び捨てにしてやるわ――あの、燕雪衣のやつがいってたの……」
ニルウィスは丁霊龍の根城「龍王窟」について語った。
「龍王窟は、見た目は岩の塊なの。まあ、出入口はちゃんと作ってあるけどね、目立たないように。――もともと開いていた穴を利用したみたいで、あっちこっちに横穴もあるし、とにかくどこまで続いてるかわからないくらいだったの」
「ここに似てるなあ」
「だから、話してるのよ!……ある日、私は丁霊龍も燕雪衣も見てない隙に、一番奥までありそうな横穴に入り込んだの」
「わあ」
城太郎が間抜けな声をあげた。
「勇気あるなあ」
「変なタイミングで余計なことをいわないで」
いいながら、ニルウィスはまんざらでもなさそうだ。城太郎の表情を見れば、感嘆が心底からのものと判るから、無理もない。ニルウィスだけでなく、城太郎に誉められて悪い気のするやつのいるわけがなかった。
とはいえ、
「……それで、どこに出たと思う?」
せっかく、臨場感をだすのに謎掛けのサービスまで試みたのへ、
「え? えっと――外」
全然無感動に、気のきかない答えが返ってきたのには、彼女はがっくりした。