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飛剣跳刀
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飛剣跳刀 65


 ――そこを去った人間が「ティンバロが落ちたもの」とみなした穴に落ちたのは、実際にはいうまでもなく城太郎と、燕雪衣の弟子ニルウィスである。
 二人揃って落っこち、ニルウィスが腕を脱臼したのを城太郎がなおしてやり――忍者だからか武芸者だからか、それくらいの知識はあった――途中、芙蓉の声には気付いたが、ニルウィスが丁霊龍をおそれたため二人は横穴へ移動しており、また処置の最中でもあったから、ついに地上へ呼びかけられなかったのだ。
 城太郎にしてみれば、芙蓉ならばどんな恐ろしい敵であってもなんとかするのではないかという考えがあって、一方ニルウィスの脱臼を治すのは緊急のことだったから、とっさに後者を優先したのである。……恋人としてはありうべあらざる判断ではあるが、それだけ彼が芙蓉の腕に信頼をおいているということでもあるし、また、このヘンなところでの冷静さが彼の性格でもあるのである。
 ただ、もちろん、彼はニルウィスの腕を治すと、とって返して芙蓉のもとへ駆け付けようとした。
 ……穴から脱出することからして、かなわなかったが。
「……出られそうにないわね、ここからじゃ」
 そばに寄ってきたニルウィスが一緒に穴の出口を見上げて、
「それに、出られたって、ここからはイヤ」
 その言葉で城太郎はさっきの一幕を思い出して、訊く。
「そういや、あの、さっきの……あいつは?」
 これは燕雪衣のそれのように、相手に対する意識如何による説明下手ではない。真に頭の出来によるものだ。
 ただ幸い、ニルウィスも同じことを考えていたらしく、このときに限ってはあっさり通じた。
「師公。…丁霊龍」
 彼女は答えて、身震いした。
「あいつは恐ろしいわ――人じゃない」
「え……人じゃない?」
 最初呆然として、それから(じゃあ何なんだろう?)と考える顔になった城太郎を、ニルウィスはあきれたように睨んだ。
「馬鹿。そんだけ残忍だってことよ。いったでしょ、私の父も、その商隊も、みんなあいつにやられたって」
「あ……」
 ぼんやりと城太郎は反応したが、しばらくして、
「その……俺、きみが困ってるなら力になるし――たぶん、話せば芙蓉も、先生も力になってくれると思うし……」
 と、そこまではしどろもどろだったが、
「とにかく、そんな悪いことをしたやつが反省もしてないのは許せない」
 最後のほうはやたら決然といった。
 あいにく、ニルウィスの反応は冷ややかで、彼女は「信じられない」といった表情を城太郎向けて吐き捨てた。
「反省? あんた、大切な人を殺されて、そいつが反省したら許せるわけ? 第一、あの大悪人が反省なんてするわけがないわ」
「ああ、そうか……う〜ん」
 城太郎はその台詞の棘にはてんで気付かぬふうで、くそ真面目に考える声を発した。

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