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飛剣跳刀
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飛剣跳刀 64

 燕雪衣は舌打ちしたものの、ややあってため息まじりにいった。
「――もし、そういう話になって、それでここを出たんなら、きっと龍王窟だろう」
「龍王窟?」
 鸚鵡がえしに、飛衛。
「私たちの、住み処さ」
 親も郎党も惨殺されて、無理に弟子とされた身が、仇討ちの手を借りて……仇の家へもどっていく?
 飛衛はしばし考え――そして諒解した。
 ここは砂漠だ。そうどこでも、命をつなぐ糧があるわけではない。それのある場所なら仇の家だろうが選り好みする余裕はないし、また逆にいえば、仇の家を仇の帰らぬうちにのっとれば、それだけで仇が干上がってくれる可能性もあるのだ。
「なるほど」
 と、飛衛はうなづいた。自分の理解がいろんな意味での誤解だとは、彼は思いもしない。ましてや、燕雪衣の発言が彼女の頭をひねった結果ではなく単なる思いつきにすぎないとは、この場合においていよいよ想像だにしない。
「では、行ってみるか? そこへ」
 返事をまたず、
「ではティンバロはどうするかな」
「あんなの、ほっとけば」
 という芙蓉のせりふは聞かぬふりだ。
「書き置きでも残しておくとしよう。……どれ」
 なんと彼はふところから矢立などというものを取り出して、そばの水で墨をといて一筆したためだしたのだ。紙のかわりには、近くの木の皮をはいだ。
「うん、まあここで十日ほどは待っておれと書いておこう。雪衣どの、おぬしらがここに出張ってきたのなら、龍王窟からここまでは、そう遠くはないのだな?――ふむ、ならば俺がたまに見にくればよかろう」
 ……やっぱり、彼はなにか勘違いしているらしい。いまの言葉は、龍王窟に住むつもりのようだ。
 本人は、書くのに夢中で気がつかないが。
「……さよう、待って、誰も来ぬようなら、あるいは待つのが面倒なら、ひとりでなんとかしてもらうか。なに、もとは案内人だ、それくらいできるだろう」
「……だからそもそも、放っておいてもいいんじゃない」
 やっぱり冷ややかにいうのは芙蓉だ。
「ん、ま、それもそうだが、雇った関係上、な。仕事の報酬も半分は後払いになっておるゆえ、黙ってトンズラは、ちと信義にもとろう」
 筆を、とめた。
「そういや、あやつ、字が読めたか?」
 いまさらそんなことに首をひねる。
「まあ、読めねばどうするか、それは当人にまかせよう。……で、こいつは穴の中になげておく。芙蓉、さっき使った縄をそこの木にでも結んで、穴に垂らしてやってくれ。くれぐれも、体重をかけたら切れるような細工は無用だぞ。……念のため、書き置きはこのそばにもう一カ所、それと野営地にも残すとするか」
 で――そういった手配を終えて。
 彼ら三人は、いささか宙ぶらりんな、釈然たらぬ心のまま、オアシスをあとにしたのだった。

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