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飛剣跳刀
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飛剣跳刀 63

 と、一息おいて、冷たい眼になって、
「それとも、そうね――あんたたちみたいな悪党なら、城太郎だって殺すつもりになるかもしれないわ」
 燕雪衣の顔色をうかがった。意外にも彼女は、芙蓉のあてこすりにさっきまでのような反応をみせず、まだなにやら考える顔だ。そこへ、
「俺も、そう思う」
 これまた意外にも、飛衛が芙蓉の言葉を肯定するせりふをはいた。眼をまるくした芙蓉をよそに彼は宙をにらんで、考えかんがえ、つぶやくようにいう。
「あいつ、なかなか正義感――あるいは義侠心がつよい。あまりよく知らぬ相手を一概に悪党と決めつけることはすまいが、たとえば野営地の連中を雪衣どのの夫君が無造作に、無慈悲に殺すところを見れば、――あやつとて悪党と思おうな。そしてそう判断すれば……殺すを辞さぬ心になる可能性は、無きにしもあらず。いや、しかし見たはずはない、野営地が襲われたとき、俺たちは逆にオアシスの奥にはいっていた、ちょうど行き違いだ……」
 これは少しまえに、芙蓉と話した内容である。
「……見る必要はないさ」
 燕雪衣がいった。
「わたしの弟子から聞けばわかることだからね。……そう、じゃあ、お弟子は――わたしの弟子からわたしと霊龍の殺しを頼まれれば、うけるんだろうね?」
 ――この奇ッ怪至極のせりふに、飛衛と、さしもの芙蓉さえもが跳びあがり――燕雪衣とその弟子ニルウィスの因縁を知らないから、当然だ――燕雪衣の下手な、というより説明する気のない口から、あれこれいきさつを聞き出して、ようやく納得したのがもう夜明けになったころだ。
 ただ、いきさつは判ってもなお燕雪衣がニルウィスを弟子とした心情は解しかね、それについてはいくら質問をかさねても理解不能、要するに徒労であった。
「で……雪衣どの」
 あきらめて、飛衛がいう。
「たしかに城太郎は、お弟子……ニルウィス嬢に頼まれれば、あるいは助太刀としておぬしらに刃をむけるかもしれん。それにしても、結局どこへ行ったのかはわからんではないか」
「ちょっと、なんであたしは呼び捨てで、アバズレの弟子は『嬢』づけなわけ?」
 関係ないところで、芙蓉が眉間に針をたてる。もちろんこれは、城太郎が見もしらぬ娘と一緒かもしれぬことに不機嫌になり、そのはけ口がほしいのだ。
「ああ、おまえは、身内」
 と、飛衛はあっさりいった。弟子の未来の妻だから、という理由だが、それは皆までいわず、しかもごくさりげない言い方に、芙蓉は羞恥より、怒りより、ふしぎな喜びに全身満たされて、一瞬呆然とした。
 その隙に、飛衛は燕雪衣のほうも、
「いや、失礼、身内の無礼はわびる。だからちょいと、答えてもらいたいのだが」
 強引に押し切っている。

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