PiPi's World 投稿小説

飛剣跳刀
その他リレー小説 - ファンタジー

の最初へ
 60
 62
の最後へ

飛剣跳刀 62

「まさに、そのとおり」
 燕雪衣の言葉はことごとく、飛衛の意にそっていたらしい。彼は続けていった。
「しかも、消えたのは――オアシスにおらんのは明白だ。とくに、城太郎の声が聞こえぬとなると、な……あいつは、芙蓉、おまえを追って奥に入っていった。よしこちらが捜していることを知らずとも、芙蓉の名は呼んでおるはずだ」
 それを聞くや、芙蓉は蒼白になってきゅっと唇をかんだ。――飛衛の言葉ではじめて、城太郎とはぐれた原因が自分にあることを思い出したのだ。あのとき、どうしてあんなことを……と、後悔しても遅い。
 一人であれば泣き出していたかもしれないが、人前で、ことに燕雪衣の前で、涙を見せたくはないから、ただうつむいた。そのかたわらで。
「飛…飛衛、どの」
 多少、呼びにくそうに、燕雪衣が声をかける。夫のはずの丁霊龍は呼び捨てのくせ、飛衛には「どの」をつけたのは、相手が自分に対して丁重によびかけるから、それへ素直に反応したものか。もっとも、
「……そっちの弟子の腕はたつのかい?」
 呼びかけ以外はあいかわらずの口調だが。
 対して。
「腕?」
 表面的なことの委細にはかまわず、飛衛はそこにだけ反応した。
「まあ、純粋に腕だけをいえば、悪くはないはずだが」
 首をひねりつつ、真面目に答える。
「しかし、実戦となると、いささか不安なところはあるな。なにせあまりに愚直すぎる」
 まったくかざらぬこの弟子への評に、弟子の恋人たる芙蓉は沈んでいるのも忘れてそちらをにらんだが――さすがに、一片の曇りもないところにケチはつけられなかった。
「わたしとは、どうだい?」
 燕雪衣が問うた。
「尋常に立ち会えば、あるいは。しかし普通にやりあえば、歯がたつまい」
「……?」
 燕雪衣でなくても、意味不明な飛衛の答えである。彼自身、その自覚はあったらしい、にやりとしていい直した。
「弱い、というわけではないが、手練手管の面でさっぱり相手にならんことは断言する」
 師匠のくせに、いやなことを断言する。しかも、なぜか胸をはって。
「……そこは偉そうにするとこじゃないでしょっ」
 と、芙蓉がひっぱたいた。
「あいたっ」
 悲鳴をあげる飛衛の横で、
「……けど、弱くはない」
 燕雪衣はまだ城太郎の腕にこだわりを見せて、つぶやいている。
「……と、すると――ニルウィスは――?」
 それから、また飛衛に訊いた。
「お弟子は、殺しを頼まれたら――うけるかねえ?」
「なっ、何をいいだすのよ!」
 飛衛よりさきに芙蓉がいいかえした。
「あの城太郎が、殺しなんか……するわけないじゃないっ、あんたたちみたいな、人を人とも思わないような悪党といっしょにしないでよ!……」

SNSでこの小説を紹介

ファンタジーの他のリレー小説

こちらから小説を探す