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飛剣跳刀
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飛剣跳刀 7

「でも、あたしが城太郎についていくことを自分で口に出すと、あたしが怒ると思ったんでしょ?」
「そのとおり」
飛衛の返事に、芙蓉が舌打ちする。
「ほんっとに、腹の立つ人!あたし自身にいわせていじめたかったのね!」
「…被害妄想娘」
飛衛の呟きに、芙蓉の夜目にも白かった顔が、みるみる紅を上せた。ただし目には怒りをはらませ、眉をつりあげている。
今にも声をあげようかというとき、飛衛が危うくいった。
「こいつが何者か、ききたくないのか」
はっ…と芙蓉が息をのみ、それからまたしても機嫌を損ねた顔付きになった。しかし、
「センセの意地悪」
ぽそっと尖らせた唇で呟くと、
「じゃ、話してよ。今回はあたしの敗けにしとく」
宿の方へ、飛衛の袖を引っ張った。


 宿に戻るなり、客たちはざわめいて一斉に振り返った。そして…静まりかえった。
 振り返ったのはさっきの騒動がやはり内にも届いていたせいであり、静まりかえったのは、飛衛の凄味のある隻眼の光にあてられたか、芙蓉の美少女ぶりに息をのんだか、あるいはティンバロの娼婦姿にど胆をぬかれたか。
 …いや、ただ一人、何事もなかったかのように三人を迎えた者がある。
「あ、先生、おかえりで」
 城太郎である。飛衛の後ろの二人に目を凝らして、
「あ、芙蓉…」
 それだけいって絶句した。だが、表情は明らかに歓喜をみせて、数歩、歩み寄った。芙蓉も花のような笑みを浮かべて、飛衛の後ろから駆け寄ってくる。
「芙蓉、どうして…」
 ほとんど無意識に手をとりつつ、城太郎が訊く。
「…理由を、わざわざ訊かなきゃダメ?」
 ぴったりと見上げた視線をあわせて、芙蓉が訊き返した。
「ん…えっと、じゃあ、無理して訊かないことにする」
 素直に頷く城太郎を、
「ニブイ!」
 芙蓉が打つ真似をする。
「…何だよ?」
 きょとんとした城太郎の目が、再び飛衛の後ろへ向き、
「あれ、それは、誰ですか?」
 今更な疑問を口にした。

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