飛剣跳刀 60
「さて、どうしたものやら」
つとめて明るく、飛衛はいった。
目の前の地面には、まさに「口を開けている」というに相応しい様子で、どれほどあるやら知れぬ穴が、真っ黒な闇をのぞかせている。
否、どれほどあるかについては、さっき芙蓉が降りていって、確認した。見た目よりは存外あさくて、彼女の背丈の、二倍ほどだ。
ただし、彼女は、穴の深さを確かめるために降りていったのではないが。
――飛衛と芙蓉、そして燕雪衣は、いちどこのオアシスのあちこちをすみずみまで見てまわったのである。しかしあいにく、見つかったのは例の野営地にあったおびただしい死体ばかりで、生きた人間とは一人ともめぐりあえずじまいだった。呼びかけの声に答える声さえもない。
それであらためて、三人が出会ったあたり、芙蓉がたしかに城太郎の声を聞いたというあたりを、念をいれて捜してみると、そこに穴を見つけた。その中に誰か、人が滑り落ちたらしい形跡も。
即座に自分も穴の中へ飛び込もうとする芙蓉を、飛衛は必死にとどめて、なだめ、すかした。
「まてっ! こら、落ちたのが城太郎という証拠がどこにある! それに、がむしゃらに飛び込んで、その先がどれほど深いとも知れんのだぞ……」
「そんなの、城太郎がいるならどうでもいいっ!」
――飛衛がいうのは、穴が深く、落ちたり飛び込んだりした場合に打ち所が悪ければ、命に関わるかもしれぬ、そうでなくても二度と上がって来ることがかなわぬかもしれぬ、ということだ。
芙蓉もそれは承知しながら、たとえそのいずれの運命に遇おうとも、城太郎と共にあれば構わない、苦しむのも死ぬのも一緒だ――と、普段なら絶対飛衛の前では口にしないようなことを意味する台詞を叫び返したのである。
もっとも。
「だーかーらっ、そこに本当にあやつが落ちたかどうか、まだわからんのだろうがっ! おまえが一人ではやとちりして、揚句に命でも落としてみろ、俺が、あやつに合わせる顔がなくなるだろうが」
……これは、効いた。
「わかった」
えらくおとなしくなって、彼女はうなづき、
「じゃあ、センセはどうするのがいいと思うのよ」
「ふむ」
小首を傾げた飛衛は、小石をひとつ、穴へ投げ入れて、反響に耳をすませた。反響どころか、本当にすぐ下とおぼしいところでコツンと音がした。
「そんなに、深くはないらしいな。――芙蓉、おまえ、降りてみるか? そうだな、腰に紐を結わえておいて、上がるときにはひっぱって合図しろ。火を持って入って、消えたら、そのときも」
……で。芙蓉が降りて、また上がってきたところだ。