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飛剣跳刀
その他リレー小説 - ファンタジー

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飛剣跳刀 57

「あつつ…」
立ち上がって、腰をさすってみる。さいわい、打ち身をこしらえたとおぼしい鈍痛はあるが、くじいたり、骨を折ったりした場所はなさそうだ。
だが、そうやって立ってみて、さらに手をのばしてみても、穴の入口には全然、届かない。さらには、壁となっている土がまったくもって脆く、足掛かりとしての機能も期待できないとわかった。
「お月サンの、バカヤロー!」
ティンバロがこの際にそんな馬鹿げた台詞を口走ったのは、ふざけたのではなく、本当に、手の届かぬ穴の外から丸くのぞいた月光が憎らしくなったからで。
しばらく、散々に月光と丁霊龍と己の運命をのろったあと、彼はちょっと泣き出したくなった。弱気なつもりもなく、実際うるさいくらい陽気な――命のやりとりの中ですら先のごとくその陽気さを失わぬ少年ではあるのだが…こんな具合に、自分の未来に関してさっぱり見通しのたたぬ状況に追い込まれると、どうしようもない寂寞を感じる。
そして、そんな感傷などとは平生もっとも縁どおいゆえに、ティンバロにはいささか、寂寞の思いはこたえるのである。
が、そのとき、彼の髪の中でなにやらモソリと身動きしたものがあった。
もちろん、ティンバロには分かっている。
「おまえかよ…」
頭にやった手を、はたしてもそもそと蜘蛛の足がくすぐる。
「おまえさあ、たしかもともとはこの砂漠に住む砂蜘蛛なんだよな。飛衛の旦那は飼蜘蛛っていってたけど、もしそうでも、ここは故郷だろ、出れる場所教えてくれよ?」
何が悲しくて蜘蛛とおしゃべりするのやら…ただ、彼にしてみればしゃべる相手がいないより断然、ましなのである。
蜘蛛はこたえるようにモゾモゾと足を動かした。
「…くう、可愛いやつめ」
暢気というか、その場にのみしかこだわらないというか…ティンバロがさっきまでのおセンチ気分を脱して、今度は和みムードになりかけた、そのとき。
逆じょうご型とばかり思っていた穴の壁が一カ所、ひとりでにボロリと崩れて横穴があいた。
「ラッ…キー…?」
といっていいのかどうか、ティンバロはしばらく戸惑ってその横穴の口を見つめていたが、やがてぱっと顔を輝かせた。――横穴の向こうから、光がもれている!
「ザマぁ見ろ!こんな所でくたばるティンバロさまかよ!」
誰に向かってやらわからぬことを歓喜のあまり喚きつつ、彼はその穴めがけて突進した。
光が洩れているということは、穴の出口――と、彼の単純な脳みそは判断している…いや、確信している。
実際には光は現在も彼の頭上から射しているのだから、光が届くからといって、すなわちそこら外へ脱出できると決まったわけではないのだが。
横穴はちょうど、ひと一人が這って通れる大きさだ。うかれたティンバロは何のためらいもなく、まず頭をその穴に突っ込み…
――その瞬間!

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