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飛剣跳刀
その他リレー小説 - ファンタジー

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飛剣跳刀 53

芙蓉の言葉に、しかし飛衛は怒らない。たとえ間抜けであれ弟子は弟子、単なる推測とはいえとりあえず安心して、その安心で芙蓉の手酷いからかいも帳消しになったのである。それどころか、
「では、探しにゆくか」
と笑って、そこで、
「いや、ちょっとまて。さっき投げた笠に…マントが」
うろうろとそのあたりを捜し回る。捜しながら、燕雪衣に再度訊いた。
「しかし、本当に何も質問はないのかな。この筝がここに転がっていることにでも、疑問を感じそうなものだが」
親切心より、燕雪衣のあまりに不可思議な雰囲気につりこまれたための台詞でもある。
「別に」
燕雪衣はやはり冷たい声で、
「あの男がやることなんて、一から十までどうせ解りゃしないよ。その鉄筝をそこに置いているのだって、単なる気まぐれさ。まんまとそれでおびき寄せられたのに腹はたつが…ふん、なんでここに鉄筝があるかなんて、私の知ったことじゃない。私に用があるなら、また現れるんだろ」
と、不意に芙蓉が笑い出した。
「用がないときはいつでも勝手に姿を消して、用があるときだけまたノコノコ出てくるっていうの?ずいぶんな旦那さんね。…もっとも、二度と姿を見せられない場合っていうのもあるんじゃないかと思うんだけど」
「おい…」
飛衛が、まさかという目を芙蓉に向けた。…まさか、丁霊龍にやったことを、相手にいっぱい喰わせたさにあらいざらいぶちまけるつもりか?…やりかねない、今の場合、城太郎の無事にうかれたあまりに。
案の定、芙蓉はこの世のものとも思えぬ愛らしい笑顔でいった。
「毒つきの暗器をたっぷりお見舞いして、水の中に放り出したんだけど、生きてるかしらね、まだ」
「へえ」
と、しかし燕雪衣の声はあくまで冷たい。
「あいつの場合、ちょっとやそっとの毒でくたばりゃしないとは思うけどね。…とどめは、さしたのかい?」
顔色ひとつ変えないまま、そんなことまで訊く。
「…とどめは、まだ」
芙蓉のほうがかえって面食らって、素直な答えをかえした。
「そこまでやったわけじゃないわ、出会ったついでだし」
…素直な答えでも、これについては、飛衛はこっそり首をすくめざるを得ない。どこに、出会ったついでにそうまでする妙齢の娘がいるんだか。実際目にしていなければ信じられないところだ。
が、ここで、
「とどめをさしておらずとも、死んでおったら…おぬし、どうするのだ」
彼は気を取り直して、きく。
「というより、その生死が気にならぬか」
「気になる」
ある意味で意外な、燕雪衣のいらえ。
「では」
と、飛衛はそこにこだわらず、さらに続ける。
「雪衣どの、こちらともども、人捜しをする気はないか?」
「――ちょっと!?」
芙蓉が飛衛の片袖引っ張って、燕雪衣からその身体をそむかせて、囁いた。

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