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飛剣跳刀
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飛剣跳刀 50

 芙蓉が、何かいいかけるように口を開いたが、間一髪、声のでるまえに、
「頼む、もう何もいわんでくれ!」
 飛衛に拝まれて、残念そうに口を尖らせた。
「…牛だか猿だか知らないけどね」
 燕雪衣の冷たい声は、さっきの質問に対する答えだろう。
「ここらにいた人間なら、霊龍がみんな殺したよ」
「霊龍…というのはこの筝の持ち主だな。──黒づくめの出たちだ」
 飛衛が、さっききいた芙蓉の話と照らして、確認する。
「そう。丁霊龍」 あんまりあっさり頷いた燕雪衣に、飛衛は首をひねった。
「お前さん、妙に素直だな。そいつと同じ一味なのではないのか?」
「一味、ねぇ…」
 燕雪衣は片頬で笑った。
「あいつは夫のつもりらしいけどね」
「…では夫婦ではないか」
 ならばそうとはっきりあえば良いではないかという口ぶりで、飛衛はいう。
「ばかね、わかんないの?」
 芙蓉が後ろから小声でいって、こづく。
「分かるの分からんの、何のことだ」
 眉をひそめて飛衛が言い返す。
「もうっ、分かんないなら黙って!」
 小馬鹿にした様子もあらわに、また芙蓉が言葉を返した。
 飛衛は怒鳴りだしかけて、口を半分開いたところで気を変えた。
 くるりと、妙にはっきり燕雪衣のほうを向いて、
「俺は、その…丁霊龍とおぬしの問題に、口を挟もうとは思わん。したがって、別のことを訊きたい」
 要するに、芙蓉のことは無視したわけだ。
「ねえちょっと!」
 芙蓉はじだんだ踏むが、飛衛は涼しい顔で、そちらには目もくれない。
「いま、みんな丁霊龍が殺した、とかなんとか聞こえたが…つまり、どういうことだ?」
 一度いってから、あまりに漠然としすぎた質問だと気付いて、つけたした。
「つまりだ、おぬしらは何をしに何人で来た?殺したそいつらというのは誰だ?」
「霊龍が、久々に修練をしたいっていいだしてねぇ」
 燕雪衣はあまり関係なさそうなことをいいだしたが、飛衛は何もいわなかった。話す気の相手を急かすことはない。──それくらいまえている。が、
「それで、来たのさ。死んだ連中が誰かなんて…」
 燕雪衣は当然のように何の説明もなく、そのまま話を続けてしまう。ばかりか、話題まで変えるつもりらしいから、とうとう、飛衛とておとなしく待つわけにもゆかなくなった。
「ちょっと、待ってくれ!修練とはなんだ、どうしてここに来ねばできない?」
「修練には人がいるものさ。…昔はそれでも、案山子や死体で我慢していたんだけどね」
 話を中断してまでの質問であったにもかかわらず、燕雪衣には相手にわかりやすく説明するつもりはないらしい。ひたすら淡々と、ただ質問されたから答えるに過ぎぬといった調子でいった。
「…だんだん、腕が上がってきたものだから、怖いものもなくなっていったのさ。どんな人数が武器を持って来ようが、練習に使いたけりゃ出て行くよ。もっとも、食いぶちいただくのもたまにゃ理由になるけどねえ」

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