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飛剣跳刀
その他リレー小説 - ファンタジー

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飛剣跳刀 49

「お、くるぞっ!」
 低い声で飛衛は注意をうながした。注意にしては、顔のほうが何やら楽し気だが。
 が、そのとき!
「きゃああぁっ!」
 芙蓉が恐怖の極致といった絶叫をあげた。さっきの余裕はどこへやら、顔は青ざめ、ひきつって、張り裂けそうなほど見開かれた双眸は、涙すらにじませている。
「あ、あそこっ!センセ!見て黒い男…」
 臨戦体勢にあった二人が、弾かれたように反応した。──ただし、芙蓉という少女をどれだけ理解しているかを、それぞれ如実に見せて。
 すなわち、燕雪衣は鞭のように芙蓉の目線の先を振り向き、飛衛はその彼女へ一直線に踏み込んだ。
「霊龍…?」
 と、向いた先に燕雪衣は目を走らせたが、
「芙蓉、さすがだの」
 そんな声といっしょに、再び伸びてきた腕につかまれた。しかも、さっきとは違って、その手は箍のようだ。
 燕雪衣は、ようやく事態の真相を悟った。
「小娘、たばかったね!」
 憎悪に火を吹きかねない双眸を芙蓉に向けたが、当の芙蓉はさっきの恐怖の相もどこへやら、小憎たらしいまでに愛らしい笑顔で平然と燕雪衣を見つめかえす。その上、
「たばかったのどうのって、よくもその真っ黒な性根でいえたものね。自分はあばずれのくせに」
 笑顔はそのままにそう吐き捨てる。
「…っ!」
 怒りのあまり言葉を失いつつ身をもがく燕雪衣を、
「まあまあまあ、どうどう」
 手を掴んだままの飛衛がなだめるような声をだした。いや、
「…まったく、美人二人とはいえ、こうジャジャ馬ではの。眺めて満悦する隙もない」
 続けてこんなことをいったところからして、本気でなだめるつもりとも思えないが。案の定、
「戯れごとを!」
「ちょっと、あたしとこのあばずれを並べないで!」
 双方から凄まじい反発を頂戴した。しかも、
「小娘!少し顔がいいからっていい気でほざくんじゃないよ!」
 燕雪衣の怒りは、芙蓉のあてこすりでいっそう油をそそがれたようであった。
「いや、すまん。俺の悪ふざけがすぎた!」
 おとなしく、飛衛はあやまった。
「このまま、同じようなことをいくら繰り返しても埒があかん。お互い、訊きたい事もある身…だろう、お前さんも」
 答えを待たず、飛衛は勝手にそう決めた顔で、続ける。
「しかしなんだ、このままでは妙に話しづらい。何せ、相手の名も知らぬでは。…というわけでものは相談だが、お前さん、名くらい教えてもらえんか。俺は、楊生飛衛という。こっちは、薬師芙蓉」
 唐突に自己紹介をはじめた飛衛を、燕雪衣は変なものを見る目で眺めている。──が、ややあって。
「燕雪衣」
 ぽつりと口にした。
「そうか、それでは雪衣どの」
 どの、とつけたのはミン風の敬称にうとかったからだが、脇できいていた芙蓉にはおかしくて、こんな場合にふきだした。飛衛はそっちを半分いまいましげに、半分ふてくされたように睨むが、なんとか気を静めて燕雪衣に質問する。
「こちらが聞きたいのは、…牛と猿みたいな少年を見なかったか?」
「…牛と、猿?」
 思わず、というようにオウム返しにしてから、燕雪衣は
「お離し。いつまで握ってるおつもりだい」
 飛衛の手をふりはらう。
「おまえの武芸は私より上で、そこの小悪魔は妖術つかい、その上逃がす気はないところを私が逃げられるわけがないよ」

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