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飛剣跳刀
その他リレー小説 - ファンタジー

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飛剣跳刀 46

「センセっ!?」
 さしもの芙蓉が半分引っくり返った声をあげた。
「何してるのよ!」
「と、非難がましくいわれるような真似をしたつもりはない」
 飛衛は胸をはる。
「もしも、おまえのいった男女が互いに仲間なら──これは俺の勘だが、十分ありえるぞ──、この音を聞けば間違いなくこちらに来る。女だけか、男が死んでいなければあるいは男も。もしくは、まだ姿を見せていない一味がいるなら、そいつらも」
「だから、何よ。あたしたちだけならともかく…」
 芙蓉がいうのは、万一、城太郎がやはりこのそばにいて、何も知らぬままにやって来た誰かと鉢合わせしたら…ということだろう。
「ははぁ、城太郎の心配か?」
 と、飛衛はそれを察知して、
「それまた、心配ない。俺の弟子だ。…型に馬鹿正直というのをのぞけば、なかなか悪くない。むしろ、あいつは性格が性格だ。ちょっとやそっとの殺気じゃ、ビクともせんだろう。その点、心配はティンバロのほうだが…」
 そのティンバロが近くにいないのは、芙蓉と出会う前に二手にわかれたせいだ。…そのときは相手のことも詳しく知らないから、事態の異常も機転のきくティンバロなら大丈夫だろうと甘く考えたのである。
 それを、飛衛は説明しかけたが、
「あんなやつ、どうだっていいわよ」
 芙蓉の冷たい台詞が遮った。
 飛衛は苦笑した。
「まあ、そういうな。──と、それは置いてだな。どっちにしろ、出くわしたところであまり心配はいらんだろう」
「──たしかに、普通に出くわすよりもマシかもね。センセの考えって、こういうことでしょ?…一味の誰かが持っている琴が変な音を出したんだから、そっちのほうが気になるはずだって。聞いたのがあれだけでも、心得がまるでない人が弾いたのが丸分かりだし。誰だって、不思議に思うわよねぇ」
 …飛衛の意見に賛成しているのか、飛衛を馬鹿にしたいのか、わからない。どちらにせよ当人は、
「楽にも心得があるとは、恐れ入る」
 そういって済ませてしまったが。
 ──息詰まるような数十秒が流れた。
「…ちょっと!」
 不意に、芙蓉が飛衛をかるくひっぱたいた。
「こんなときに、むこう脛なんか掻かないでよ!」
「虫が、刺した。…」
 飛衛はいいわけした。
「そんな場合じゃないでしょ!少しは状況考えて!じゃなきゃ、あたしが刺してやる」
 と、芙蓉は叱って、それから突然
「しっ!」
 ひくく注意を促した。
 ──なんだ、と尋ね返すような愚行は、さすがに飛衛はおかさない。
 …息を潜めた二人の耳に、微かに笛らしい音が流れてきた。方角をいえば、パーティの夜営地あたりから。
 曲を奏でるというより、少し吹いてはやめ、それからまた流れてくる。…どこか、尋ねかけるような調子でもある。
 二人はどちらからともなく、草かげに隠れている。音を立てずに移動することなど、この二人には朝飯前であった。
 そこで芙蓉が、手を出せというように飛衛を引っ張った。それに応じた飛衛の掌に、芙蓉は書きつけた。
 ──いきなり近くに来る、気を付けて
 飛衛がこっそりニヤリとして、これは珍しいと考える間に、芙蓉は次の行動を起こしている。足元から小石を拾いあげるや、見事な要領で、位置を変えずに転がったままの鉄箏の弦の一本のみにうち当てたのだ。

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